空を翔けるトナカイ
厩舎の入り口に戻ると、既にマックスとフロストは打ち解けあって居るようで、微笑みながらフロストを撫でていた。
ネーヴェも合流して、旦那に挨拶している。
「アーロン、フロストくんすごくいいね。この子なら、寒い冬の夜も元気に飛んでくれそうだ!マックスもネーヴェも元気そうでよかった。是非この三匹を貸して頂きたい。」
ご満悦な様子なのを見てホッとする。
フロストとの相性も良さそうでよかった。
「あぁ、もちろん。ソリは昨年新調したばかりだし、点検くらいでいいか?」
「そうだね。それでいいよ。あと、服が少し古くなったから、新しいのを頼むよ。」
「了解。サイズは3Lでいいか?」
「それで構わないよ。今年も素敵な夜になりそうで、今からわくわくするよ!」
「それはよかった。そしたら詳しい日時はまた手紙を送るからそれを見てくれ。それじゃあ内容確認して貰ってサインだけ頼む。」
簡単にメモを取り終えて、ポケットに入れていた契約書を旦那に渡す。
サンタクロースはゆっくりと項目を確認した後にサラッと書かれたサインを書いている。
受け取った契約書のサイン欄には、達筆な文字で"サンタクロース"と書かれている。
「ありがとう。これで契約完了だ。」
「こちらこそ、ありがとう。よし、また11月に会おうね、三匹とも。」
サンタクロースは最後に三匹を撫で、俺たちは雑貨屋の入口まで戻った。
「それじゃあ、また連絡するよ。旦那も何かあったら電話か手紙くれればいいから。」
「わかった。楽しみにしてるよ。じゃあまた。」
そう言い残し、サンタクロースは帰って行った。
その後も数日、お得意様や独立した新米が数人来て、今年の予約が埋まった。
予約も埋まったことだし、クリスマスの準備といこうじゃないか。
*
準備を始めて4ヶ月が経ち、発注されたものの準備は全て完了した。
そんなこんなで納品日。
最初にマックスたちが西の空へと飛び立つ。
マックスはいつも通りおっとりしていて、フロストは初めての外に目を輝かせている。
ネーヴェはプレゼントした水晶を嵌め込んだ首飾りを付けていてご機嫌だ。
「マックス、ネーヴェ、フロストのこと頼むぞ。フロストはふたりの言うことちゃんと聞いて、学んでこいよ。」
ーーうん、任せといてねぇ。アーロンもしっかり休むんだよぉ。
ーーうん!!心配しないで、アーロン!!……僕も首飾り欲しい!!
ーーこっちは任せといて。……あの、アーロン、首飾りありがとう。頑張ってくるよ。
「頼むよ。フロストの分もそしたら作っとくから頑張ってこい。それじゃあそろそろ行っといで。」
深呼吸をして合言葉を唱える。
『May the stars guide you』
次の瞬間、空へと続く星の道がフワッと現れる。
「行ってらっしゃい!」
ーーーいってきます!
聖なるトナカイたちは元気よくその道を翔け上がっていく。
この幻想的な景色は俺やサンタクロースしか見れない特権だ。
マックスたちの後に、北や東に行くトナカイたちも見送って、今年の業務は終了だ。
皆が去った後の夜空を眺めながら、怪我なく安全に帰ってきてくれるように空の星に願った。
あっという間に月日が流れ、そしてクリスマスの夜。スパイスたっぷりのホットワインを片手に、夜空を眺めるのが毎年のルーティンとなっている。
今年はオーロラがカーテンのようにかかっていて、息を飲む美しさが辺りを包んでいた。
ふと、空の上で何かがキラリと光った気がして、目を凝らしてみる。
そこには赤い服を着た大男と、ソリを引く三匹のトナカイが、夢と笑顔を運んでいるのが一瞬見えた気がした。
俺はそれが嬉しくて、子供のように目を輝かせながら、手を振るのだった。
サンタクロース御用達 アーロンの雑貨店 美月つみき @tsumiki_8
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