サンタクロース御用達 アーロンの雑貨店

美月つみき

アーロンの雑貨店


7月上旬、今年も忙しい時期がやってくる。

世界的に子供の数は減ってきていて、サンタクロースたちたちの仕事は年々縮小傾向。

だが待っててくれる子供たちのために、彼らは空を飛び回る。

俺はそんなヒーローたちが必要な物を用意している、しがない雑貨屋だ。


俺が用意しているのは、全て自信を持ってお勧めできるものしかない。

トナカイたちは、一日飛び回れる元気な子たちを貸し出しているし、

彼らが着ている服は、南極だってへっちゃらな防寒バッチリに仕立てている。

特にソリに関してはどこにも負けない。

トナカイたちへの負担を軽減し、馬車型を採用することで子供たちへのプレゼントやサンタクロースも安全に空の旅をすることができる優れものだ。

他の所はそり一台に対して、トナカイは最低四匹必要だが、俺のところは最低二匹、長時間飛ぶなら三匹いれば大丈夫。

経済的にも優しいってわけだ。

他にもオプションを用意しているし、材料もたんまり用意してある。

今日は半年ぶりの開店日だ。

今年も張り切ってやって行こうじゃないか。



看板をOPENに切り替えて、珈琲を飲みながら新聞を読んでいると、カランコロンと扉が開いた。

優しい雰囲気を纏った大男、こいつは西のサンタのひとりだ。名前は知らない、夢がないからな。

だからサンタクロースを呼ぶときは、統一して全員を"サンタの旦那"と呼んでいる。

「やぁアーロン久しぶり。調子はどうだい?」

「おう、サンタの旦那、いらっしゃい。今年も絶好調だぜ。」

「おっ、それは今年も期待出来るね。よろしく頼むよ。ここが一番安心して使えるからね。」

「それはありがてぇな。ま、早速交渉と行こうじゃねぇか。よし、こっちにきてくれ。」

珈琲と新聞を定位置に置いて、サンタクロースを店の裏側に案内する。

そこにはソリや服を作るための作業場やトナカイたちの厩舎があって、実際に見て貰って選んでもらう。

綺麗に管理された厩舎と作業場は俺の誇りだ。

「まずはトナカイからだな。昨年レンタルしてくれたのはマックスとベル、それとネーヴェだったな。ベルは昨年で引退なんだよ。マックスとネーヴェは、今年も長距離走るのを楽しみにしてるぜ。どうする?」

「ベルにはお世話になったよ。あの子はすごくいいトナカイだった。後で挨拶させてくれ。………うん、マックスとネーヴェとまた飛びたいね、あともう一匹おすすめはいるかい?」

「ベルはずっと旦那と飛んでたもんな。ベルも喜ぶよ。おすすめは、今年デビューのフロストってのがいるんだ。元気はつらつで体力もばっちり。ベテランと組ませて経験を積ませたいんだがそいつはどうかな?」

「ほう。気になるね。アーロンがいいって言うならまぁ大丈夫だろうが、まずは顔合わせがしたい。」

「了解。そしたら連れてくる。ここ座って待っていてくれ。」

サンタクロースは厩舎の中にあるベンチに座ると近くにいたトナカイたちを眺め始める。

それを見てから、俺は先ほど挙げた三匹たちを迎えに厩舎の奥へと向かった。



マックスとネーヴェは、ソリ引き歴四年とベテラントナカイだ。

今年か来年で引退させて、後はゆっくり過ごして貰おうと思っている。

フロストはマックスに懐いているし、手本を見せてやるには丁度いい。

少し歩くと、マックスとフロストがいる場所に辿り着き、中を見ると二匹はいつも通り一緒に遊んでいた。

「よぉマックス、フロスト。元気か?」

ーーあ、アーロンだぁ。おはよぉ。僕は元気だよぉ。

ーーアーロンおはよう!!げんき?げんき?

「おはよう。2人が元気でよかったよ。俺も元気だ。それでお前たちにお客さんだ。ネーヴェも連れていきたいんだが、居場所は知ってるか?」

ーーネーヴェは外で日向ぼっこ中だよぉ。お客さんっていうと、西のサンタさんかなぁ?久しぶりだねぇ。そうしたら先に入り口に行ってるよぉ。フロスト、おいでぇ。

ーーマックス兄ちゃん待って待って!アーロン、後でね!!

マックスはゆっくりとした足取りでサンタクロースの元へと向かい、フロストは軽快な足取りでマックスを追いかけていった。

さて、そしたらネーヴェはいつものところか。

厩舎の外は牧草地になっていて、毎日放牧している。

ネーヴェのお気に入りは、俺の爺さんが植えた月桂樹の下だ。

思った通り、ネーヴェはそこに居た。

「ネーヴェ、お前にお客さんだ。」

大きなあくびをしながら俺を見たかと思ったら、プイッと顔を逸らした。

こいつ、朝のこと怒ってやがるな。

「あー……今朝、お前が枝を折っちまって悪かったよ。」

ーーはぁ……。僕だって素直に謝ってくれれば怒らないのに、いつもアーロンは謝らないよね。……まぁいいさ、あれよりももっといい枝持ってきてくれなかったら、今年は飛んでやらないからな。ふんっ。

ネーヴェは鼻息を吹きかけて、プリプリおしりを振りながら厩舎へと向かっていく。

俺があげた枝が、そんなに大切なものだとは思わなかった。

今度はもっといいのをやろう。

そう心に誓いつつ、サンタクロースの元へ戻ることにした。

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