第2話 出立

「何人だ?脱けようと思っているんだろう」


「儂らを甘く見るんじゃない。伊達に歳をくっているんじゃない。表情を見れば分かる」


「儂が身分証を偽造してやるぞ。ハルキは剣士2で良いか?テオ(元部隊長)がそれくらいはあると言っていた。職業は冒険者にしておいてやる。旅をしていても不思議ではない職業だ」


夕方、不審がられないようゴミ山の入り口に戻ると、捨てられた年配者たちが声をかけてきた。


「たくさん肉を貰ったからな。お前さんにとっては何の得にもならなかっただろうに」


「儂らはスキル無しをゴミ拾いと馬鹿にしてきたが、儂らも役に立たないと捨てられた。ゴミのようなものじゃ。儂らにとってお前の親切は身に染みるのさ」


「只じゃないぞ。美術2のスキル持ちが贋作士として最高の身分証を作るのだ。明日の夕方に兎を三羽炙って持ってこい。それで何人だ?」


「僕とあと二人」


「思っていたより少ないな。仲間が多いと見つかるリスクが高い。慎重なのは良いことだ」


「スキルは何にする。名前、年齢、性別、そして記載するスキルも教えてくれ。職業はみんな冒険者にしておいてやる。旅の冒険者パーティだと思われるだろう」


「ありがとう。ヤン爺」


「爺と呼ぶな。年寄りじゃない。儂たちの子供や孫の中にも不憫なスキルで苦労している者もいる。お前を見ていると頑張れと応援したくなるのじゃ…。確かに歳を取ったのかもなぁ」


贋作士の言葉に捨てられた者たちが明るく笑った。どの顔にも昔は活躍していたんだという誇りが滲み出ていた。


ミオンのスキルは魔術1とヤン爺に伝え、天使は勝手にカンナ、15歳女 治癒術1とした。神に追われているからカンナ、イメージで治癒術だ。年齢は僕より一つ下とした。もっと年上かもしれないが見た目で決めた。



本に目を通し、骨折を治すことに挑戦する。スキルを得たら使えるようになるんだ。なぜか魔術や治癒術の本はあるが、無用の長物としてゴミ山に埋もれている。


何回か繰り返しているうちに手順が分かり、なぜそうするかも理解できた。そして天使の羽が治った。天使はまだ横たわっている。明日の朝飛んで行ってしまうかもしれないが、それはそれで良い。


寝る前に僕とミオン、そして天使のスキルを確認する。鑑定はレベル2となっており、触れることでミオンのスキルも見えるようになっている。


ハルキ(16歳男)剣術2、魔術3、治癒術2、学術3、美術1、技術1、鑑定術2、探索術2、狩術2、詐術2、商売1、ゴミ拾い3、導き手


ミオン(13歳女)魔術1、料理1


天使(不明)


僕は年配者たちから様々なスキルを教えてもらった。ゴミ山の本から様々な知識を吸収した。学術は魔物や薬草の知識が、美術は絵が上手くなる以外に贋作ができる。技術は剣や服の簡単な補修ができ、探索術は罠を見つけ地図を描く。狩術は罠を作り獣を狩り解体する。詐術は人を騙す以外に自分の能力を隠すこともできる。ゴミ拾いは多くのものの中から価値のあるものを見つけることができる。名前よりずっと価値のあるスキルだ。


魔術・治癒術はまだ覚えきれていない。だから邪魔にならない程度の本は持っていく。習得しきれていないスキルは年配者に勘所を教えてもらう。ゴミ山にはまだ使える剣や防具、そして旅袋や地図まである。僕はミオンと相談しながら三人分の荷造りを行った。


ミオンは宿屋の娘だったようだ。明るい茶色い髪は肩まで伸び、くりっとした目がとても可愛らしい。拾った時は小さく痩せていたが、食べ物が良かったのか徐々に女性らしい身体つきになってきている。剣術は一年の練習では身に付かなかったが、魔術には興味があったようで本を読みながらスキルを習得した。家の手伝いをすることが多かったのか、兎を焼いただけの料理に満足できなかったのか、料理スキルも身に付いており、僕たちの夕食は劇的に改善されている。


天使は名前もスキルも見えなかった。気を許してもらっていないのか、鑑定が阻害されているのどちらかだろう。


「ハル兄、ドキドキするね。私は料理人を得て宿屋で働きたいって思っていたけど、スキル無しでショックを受けていたの。ハル兄に拾ってもらって良かった。魔術1のか弱い冒険者だけど、自分の力で暮らせるのが楽しみ」


「練習すれば魔術2にもなるし剣術も身に付くよ。明日と明後日は大変だ。しっかりと休もう」


興奮気味のミオンに声をかけて、僕は目を閉じた。だが僕にとってもゴミ山から出るのは初めてだ。4年間もゴミ山で暮らしていたんだ。不安も大きいが期待も大きい。僕もなかなか寝付けなかった。



「助けてもらったようですね。礼を言います。申し訳ないですが力の大部分が封印されたようで、名前を言うこともできません」


「僕はハルキ、この子はミオンと言います。今天使さんの身分証を作ってもらっています。天使さんを反逆者として探している人たちがいるので、明朝にはここを発つ予定です。そのため名前は勝手に決めさせてもらいました。カンナと呼ばせてもらっても良いでしょうか?」


「カンナ。分かりました。翼もほとんど治っているようですが、それもハルキ殿が?」


「そうです。頑張ったら何とかなりました。僕とミオン、そしてカンナの3人分の身分証を作っています。冒険者パーティと言うことにしていますので、ハルキと呼び捨てにしてください」


「分かったわ。それならハルキも普通の口調で話してください」


「分かった。ところでカンナは何故ここに?」


「細かい事情を話そうとすると言葉が出てこないの。でも…今のウンダケは神というより邪神。母なる神の指示を受けてウンダケの行いを止めようとした。だけど問答無用で攻撃されたわ。力もその時に封印されたみたい」


「封印というのは?今はどの程度のスキルが使える?」


「今は弓術2と治癒術4。翼はあるけど飛ぶことはできないわ。魔術・剣術も使えなくなっている。×××神、名前が言えない。母神の加護がある場所を巡り、封印を解く必要があるの」


「翼は仕舞えない?輪は帽子で隠すこともできるが、さすがにそれは目立ちすぎる。それにカンナは綺麗すぎる。髪の色を変えたり姿かたちを変ることはできないか?」


「翼と輪は仕舞えるわ。髪の色も少し濃くするくらいはできる。でもそれ以上はできないみたい」


朝、僕たちが目覚めた時にはカンナは既に目を覚ましていた。事情を聞こうとしたが、上手く話せないようだ。ウンダケが邪神と聞いて僕は不思議と納得した。努力の価値を低くするなんて、邪神以外の何物でもない。


明朝ここを経ち旅をすることについては納得してもらった。旅をして世界を知りたい。カンナの封印を解くことも目的に入れよう。



カンナの放った矢が兎を貫く。ミオンが火魔法で兎を炙る。二人のおかげで午前中にたくさんの兎を仕留められた。二羽は僕たちの夕食や携帯食だ。残りは年配者へのお土産にする。


午後からはカンナを探す冒険者たちが来るかもしれない。冒険者たちと会わないように、僕は昼前に兎を持ってゴミ山の入り口へ向かった。


「六羽か。それにしっかり炙っている。これなら日持ちするな。ハルキがいなくなってもしばらくは肉を楽しめそうだ」


「この剣をやる。儂の誇りだ。だが剣を持ってあの世には行けない。光の属性があり自動修復する。ハルキが役立ててくれ。所有者をお前に書き換えてやる」


テオ爺が僕に剣を渡してくる。刀身が光り輝き見ているだけで惹きつけられる。テオ爺に促され振ってみると空気が裂けるような感触があった。


「儂からはこの指輪じゃ。魔術の威力が倍になる」


「儂からはこの袋じゃ。一見普通の旅袋に見えるじゃろう。だが役に立つぞ。これを売れば儂は捨てられずに済んだかもしれないのじゃが、強欲な息子の嫁にほとんどが奪われると思うと売れなかった。儂にはもう使う機会がない。せっかくじゃから役立ててくれ」


「小銭しかないが役には立つだろう。餞別だ」


「ありがとうございます」


みんなが僕に餞別をくれる。僕はみんなに大きく礼をした。修復する属性剣、威力が倍になる指輪、収納機能を持つ旅袋、全て彼らの人生の誇りだ。みんなが少しずつ小銭をくれる。これで旅費にも困らない。


「できたぞ。三人分だ」


ヤン爺が身分証を手渡してくれる。僕の持つスキル無し・ゴミ拾いと記載された身分証と比べてもサイズ、デザインともに変わらない。贋作だと分かっていても、剣術2・冒険者と記載された身分証を見て嬉しくなる。


「「頑張れ」」


「ありがとうございます」


みんながそんな僕を見て、励ましの言葉をくれる。僕は頷くようにお礼を伝えた。みんなの誇りを預かった。それに恥じないように生きよう。



治癒1は擦り傷や浅い切り傷が治せる。治癒2は深い切り傷に加え骨折も治す。治癒3は麻痺や毒などの状態異常を治す、治癒4は石化などの状態異常を癒し、軽い欠損も治癒できる。状態異常は過去の古傷や慢性疾病も含むようで、スキル所有者は国に数人しかいない。治癒5は重い欠損の回復や蘇生なども実現すると言われているが、実際に目にしたものはいない。


「お礼をしていきましょう」


カンナの言葉で、早朝、管理人が来る前に僕たちは捨てられた年配者たちのところに来ていた。


「ハルキ、今から発つのか。目立つからわざわざ寄らなくても良かったんだぞ」


テオ爺は朝が早いようだ。うっすらと明りが差す中、僕たちの顔を見て、挨拶してきた。他の年配者たちはまだ寝ている。


「治癒」


カンナの言葉とともに年配者たちを温かい光が包む。テオ爺が肘や膝を抑えて不思議そうな表情をしている。立ち上がり腕を回す。そして嬉しそうに言った。


「その綺麗なお嬢さんは天使かな。そう言われても信じてしまうよ。おかげでもう一度魔物を狩れそうだ。これでハルキがいなくなってからも温かいものが食べられる」


テオ爺の言葉にカンナが微笑む。


「年寄りは韜晦が得意だ。バレないように過ごすよ。良い旅を!!」


「「良い旅を!!」」


いつの間にか起きてきたみんなの声を背に僕たちは歩き出した。



ゴミ山は街の外にある。受付には街に入る門がある。 僕たちはゴミ山の端から森沿いに街の外周を周り街道に出た。


人混みに紛れれば神官たちはカンナを見失う。そのため行き先を昨夜みんなで相談した。北に行くとカンナと同じ髪の人が多い。南に行くと様々な人々が集まる街がある。北の方が良いかとも考えたが、同質な集団ではちょっとした違いが却って目立ちやすい。多様性を求めて、南のナヤンの街へ向かうことにした。

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2025年12月26日 18:00
2025年12月27日 18:00
2025年12月27日 18:30

ゴミ拾い天使を拾う @ItsukaHaruto

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