「AI補助利用」タグの抱える問題

ジャパンプリン

AI補助利用という分類、ちょっと雑すぎやしないか?

生成AIを利用した小説執筆が話題になって久しい昨今、私のような一般ユーザーでも体感できるほどに、「カクヨム」や「小説家になろう」に代表されるWEB小説サイトで生成AI を使用した作品を目にする機会は増えていると思います。


「小説家になろう」の新着一覧から気になった作品をピックアップして、私自身による本文の観察ならびに、生成AIによるAI執筆度判定などを行ってみました。期間は二週間程度です。そして、投稿頻度とAI依存度、ならびにAI依存度と作品の品質には相関がありそうだ、と感じました。後者に関しては「品質」をどう定義するかが問題になりますが、ここでは置いておきましょう。ただ、ここから導かれる推論は、「低品質」の作品が量産されWEB小説サイトを蹂躙している、です。この推論は、体感と相反するものではないと私は考えます。


さて、枕が長くなりましたが、このような背景もあってか、生成AIを用いた小説執筆に関してはネガティブな印象が先立つ、そのような空気感が現在形成されていると私は考えています。他方、本文執筆以外の面でも生成AIが便利なのも事実です。私の場合ですと登場人物の名前や地名は生成AIに候補を出させて、その中から選ぶ、といった付き合い方をしています。他にも、投稿前の原稿を読ませて感想を聞いたり、語彙や表現力の問題に直面した場合に具体例を示してもらう、といったところでしょうか。他の作者の方でも、何かしらの面で生成AIを使用している方は多いのではないでしょうか。それゆえに、小説作品の制作と生成AIの関与というものは、センシティブな話題である。私はそう考えます。


この「生成AIの利用」に関して、カクヨム運営から以下のガイドラインが示されました。三種類のタグ分類と、それに該当する利用状況です。以下に引用します。


「AI本文利用」

本文の大半(目安50%以上)がAIによって生成された文章。またはそれらの文章に作者が軽微な修正を加えたもの


「AI本文一部利用」

本文の一部(目安50%未満)がAIによって生成された文章。またはそれらの文章に作者が軽微な修正を加えたもの


「AI補助利用」

AIのアイデアや資料をもとに、作者自身が本文を書いたもの。または作者自身が書いた文章の校正をAIに行わせるなど、創作の補助的に利用したもの


です。


「生成AIを制作に利用した作品」という集合を巨視的に考えた場合、この3分類は妥当だと、私は評価します。ただし、「巨視的に」という条件付きです。では、この条件を外せばどうか。「AI補助利用」の利用状況説明文を見ると、明らかに創作レベルの異なる2つが同一タグにまとめられていることがわかります。以下に改めて引用します。


・AIのアイデアや資料をもとに、作者自身が本文を書いたもの。

・または作者自身が書いた文章の校正をAIに行わせるなど、創作の補助的に利用したもの


この2つ、創作に関わったことのある方であれば、混同してはいけないほど創作レベルが異なることにお気づきになるかと思います。他にも、細かいことを言えば「アイデア」をもとに書くことと「資料」をもとに書くこともレベルは大きく異なるし、「資料」と一口に言ってもそのレベルは様々かと思います。


この「AI補助利用」タグの定義する集合、その内部での創作レベル差は、「生成AIを使用した作品」という集合全体からするとただの微細構造になりますが、「創作レベル」という物差しからすると、集合内での均一性を著しく欠く。そのような不適切性を抱えていると私は主張します。この手の議論は突き詰めてゆくときりがないもので、それ故にカクヨム運営がこの形を取らざるを得なかったのではないか、と私はそのように解釈しています。実際、一般に公平性が要求される制度設計においてこのような妥協が行われるのは当然のこととも理解しています。


それでも、現在のWEB小説界において「生成AI」の関与は不名誉なレッテルである、という空気感が存在すること。この空気感はカクヨム運営の声明等で覆るものでは無いこと。その上で現在の「AI補助利用」の分類は、作品の実態に対して不名誉なレッテルを貼られてしまうリスクを内包していること。カクヨムコン参加者はこのリスクを受け入れざるを得なかったこと。このような点を踏まえて、私は現状の改善を期待しています。


最後に、不満だけ述べて代案を出さない、というのは私の本意とするところではありません。差し出がましい点もあるかと思いますが、本件に関して私なりの提案を致します。それは、「AI寄与度」スコアの導入です。0~100%の整数で、作者が作品に対して付与するパラメータです。この基準で言えば、現在の「AI補助利用」タグの含む範囲は、直感的には20~25%かと思われます。そして、私は自信を持って執筆中の小説に「1%」と付けるでしょう。実際、0ではないが1%未満、という作者の方は存外多いのではないかな、と勝手ながら想像しています。この視点からは、現状の問題は「1%」の作品が「20%」枠に入ってしまうことだと言い換えることも出来ます。内部仕様次第では難しい場合もあるとは思いますし、既に議論されたうえでの現状なのかもしれませんが、私としては、このような変更を節に願う次第です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「AI補助利用」タグの抱える問題 ジャパンプリン @japan_pudding

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画