親友(バグ)のツッコミと、最適解の矛盾
昼休み、食堂の喧騒の中で、俺はカレーライスを前にため息をついていた。
六月の湿度のせいか、それとも紗月との会話の失敗のせいか、食欲がない。
AI《Cupid》の画面には、相変わらず冷静なメッセージが表示されている。
『窓月紗月氏の好感度維持のため、次の行動を推奨します。前回の失敗を考慮し、場所を変えて話題を切り替えましょう。』
「……場所を変えても、俺が不自然なのは変わらないだろ」
俺は小さく呟いた。
そんな俺の前に、クラスのムードメーカーであり、恋愛経験豊富な親友の健太が、チキン南蛮定食のトレーをドカッと音を立てて置いた。
「おい、悠真。なんで入学試験前みたいな死にそうな顔してんだよ。お前、ついに昼飯まで効率化しようとしてんのか?」
「別に。単に食欲がないだけだ」
俺はスマホの画面を隠そうとするが、健太は慣れた手つきで俺の頭を小突いた。
「嘘つけ。朝からずっとスマホとにらめっこじゃねぇか。なんだ? 新作のソシャゲか、それとも恋愛攻略の裏サイトか?」
俺は観念して、AI《Cupid》の画面を見せた。
そこには、紗月のプロフィール写真と、現在の好感度(8%)という無機質な数字が並んでいる。
「これだ。最新の恋愛サポートAI、《Cupid》」
健太は一瞬固まり、次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。食堂の賑やかな声にも負けない、豪快な笑い声だ。
「マジかよ、お前! 天才の真白悠真が、恋愛をAIに頼るって、逆にすげぇな! 情熱をデータで計るってか? それ、終わりじゃなくて始まりだ、逆に」
笑いすぎて涙目になっている健太に対し、俺はむっとして反論した。
「終わってない。むしろ、これこそが俺にとっての最善手だ。恋愛は不確定要素が多すぎる。時間も感情もコストだ。だからこそ、AIが導き出した最適解を実行すれば、失敗せずにゴールできる」
「は? 失敗しない恋愛? そんなの、成功してもつまんねぇだろ」
健太は唐揚げを頬張りながら言った。
「恋愛の面白いところって、理屈が通じねぇとこだろ。お前の持ってるそのスマホは、紗月のあの予測不能な笑顔まで計算に入れられるのか?」
健太の言葉に、俺は沈黙した。
確かに、昨日の紗月の一言で、AIは「アルゴリズムが崩壊」と警告を出した。
そのとき、スマホが震え、AIからの新しい指示が画面に表示された。
『目標を再設定します。ターゲットである窓月紗月氏に対し、彼女の趣味を褒めましょう。「この前の写真、SNSで見たよ。すごいよね」』
「……またこれか」
俺は思わず声に出した。
「どうかしたか、優等生」
「いや、このAI、前に失敗した指示を、表現を変えてまた出してきた」
健太は呆れたように首を振った。
「ほら見ろ。AIは過去のデータしか見ねぇんだ。お前の恋は、リアルタイムで動いてるのに。アルゴリズムが証明してるのは、お前がバカってことだ」
健太はそう言って笑ったが、その言葉は、俺の揺らぐ信念の隙間に、確かな一撃を打ち込んだ。
恋愛は最適解なのか?
それとも、予測不能なバグなのか?
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