公開されたアルゴリズム、ターゲットは観測者
放課後の図書室前。
俺は深呼吸し、ポケットにスマホを押し込んだ。
AI《Cupid》の最新指示はこうだ。
『窓月紗月氏が図書委員の当番で通るこのルートで声をかけ、写真を褒め、共感性を示してください。成功率:55%。』
成功率55%。
前回“重大エラー”が出た直後にしては、上出来すぎる数字だ。
──まあ、このAIはよく成功率を盛る。
俺が角で待ち構えていると、健太が入口の陰から顔を出し、親指を立ててきた。
「よーし優等生。今日もアルゴリズムで女の子を落とすの、見物させてもらうわ」
「静かにしてくれ……」
そこへ、廊下の向こうから紗月が現れた。
分厚い返却本を小脇に抱え、ふわりと揺れる茶髪。
光を背負って歩いてくる姿が、まるで写真のワンシーンだ。
タイミングは完璧。
俺はAIの指示に従い、一歩前へ出た。
「窓月さん」
紗月がピタリと立ち止まる。
少し眉をひそめながら──でも、すぐにあの“からかいの笑み”を浮かべた。
「あ、真白くん。また今日も定型文?」
定型文……?
胸がざわつく。
いや、気にするな。感情ノイズだ。
「違う。今日はちゃんと自然体だ。ええと……この前の写真、SNSで見たよ。 夕焼けのやつ、すごく綺麗だった」
俺は“自然体のつもり”で褒めた。
すると紗月は、数秒俺をじっと見つめ──。
くくっ、と笑った。
「ねえ真白くん。それ、“Part.3の回答”でしょ?」
「…………は?」
Part.3?
どこの攻略本の話だ?
紗月は抱えていた本を胸元で持ち直し、愉快そうに言った。
「“AI恋愛診断・攻略チャレンジ”。知らない? TikTokで流行ってるやつ。男子たちが《Cupid》ってアプリの定型文を使って、私に話しかけてくる遊び」
ちょっと待て。それは初耳だ。
「まさか……俺の行動がSNSで共有されてるのか?」
「えーとね、 “窓月紗月をAIの指示で攻略してみた結果www”ってタグでね。動画、結構バズってるよ?」
背筋が凍りついた。
つまり俺は、AIの指示を忠実になぞっただけのつもりが──
クラス中の男子と同じセリフを言っていただけ?
紗月は俺の驚愕を楽しんでいるように、さらに続けた。
「私たちが協力した“高校生恋愛データ収集”っていうアレ。あれ、本当はAIの“最適解フレーズ”を検証する実験だったの。で、そのマニュアルがSNSに流出して……みんな、私に同じセリフで話しかけに来るようになったんだよね」
「…………」
「で、真白くんの質問も──はい、定型文。“褒める→夕焼け→共感”のやつ、完全一致」
まるで俺の背後に“GAME OVER”の垂れ幕が降りてきたようだった。
AI《Cupid》は沈黙し、画面には赤い警告。
『致命的エラー:ターゲットが“観測者”として行動しています。すべての最適解は無効化されました。』
紗月はゆっくり一歩近づき、俺の顔を覗き込む。
その距離、20cm。
心臓の脈動が、明らかにAIの予測値を越えて跳ね上がる。
「ねえ、真白くん」
紗月の声は、冗談みたいに軽いのに、胸の奥まで刺さってきた。
「AIの言うこと全部信じちゃうの? それじゃあ、私を攻略してるの……真白くんじゃなくてAIじゃん」
一瞬で頭が真っ白になる。
紗月は軽くウインクし、本を抱えて図書室へ歩き出す。
「じゃあね。次の“Part.4”も頑張って〜。どうせまた、AIの指示通りなんでしょ?」
廊下の先へ消えるその背中だけが、妙に鮮やかだった。
陰から飛び出してきた健太が、肩を掴んだ。
「……悠真。お前今、完全に“AIに操られた痛い男”扱いされてたぞ」
「わかってる……」
わかってるが──逃げられなかった。
紗月の最後の一言が、俺の脳内で何度もリフレインする。
“真白くんじゃなくてAIじゃん”
スマホを握りしめる俺の手が、小さく震えていた。
AIの最適解が崩れた瞬間。
ここから、俺の恋は──ようやく“自分のゲーム”を始める。
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アルゴリズムは恋を知らない~AIに頼った俺が、予測不能なヒロインに振り回されるまで~ 寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった @marineband14
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