「写真とか好き?」アルゴリズムが崩壊した初接触

「あー、そうだったね。で?」

紗月は、俺の自己紹介を遮るように「あー」と笑った後、きょとんとした表情で問いかけてきた。


「急に話しかけてきて、何か用事?」


俺は心の中でパニックに陥りながら、左手のスマホを握りしめた。

手のひらにじんわりと汗が滲む。


アルゴリズムが導き出した最初の行動で、すでに大きな誤差が生じている。


画面には、冷静なAI《Cupid》からの次の指示が、冷たい光で表示されていた。

『沈黙は好感度を下げる最大の敵です。彼女の興味を引く話題、すなわち趣味を尋ねましょう。データに基づき、写真部である彼女に対し「写真とか好き?」と尋ねるのが最も効果的です。』


なるほど。

データは正しい。


紗月が写真部なのは知っているし、これをきっかけに会話を発展させられるはずだ。

感情ノイズを排除し、指示通りに実行すればいい。


俺は深呼吸をし、頭の中で文章を組み立てた。

「ええと……その、写真とか、好き?」


言葉は口から出たものの、まるで定型文を読み上げたかのように平坦なトーンになってしまった。

表情は相変わらず、ぎこちない作り笑顔のままだ。


紗月は一瞬、きょとんとした後、まるでこちらの意図を見透かすかのように、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「好きだけど、なんでそんな質問の仕方なの?」


「え……」


「なんだろ。まるで誰かに言わされてるみたい。ねえ、悠真くんって、最近SNSで話題の**『AI恋愛診断』**とか見て、私をターゲットにしたとか?」


心臓がドクンと激しく跳ねた。


SNSのAI診断?

なぜそんな話が出てくる?


凛音の存在が頭をよぎるが、今は取り繕うしかない。

「そ、そんなわけないだろ。たまたま……たまたま、写真部の活動が盛んだから、気になって……」


「ふーん」

紗月はそれ以上追及せず、興味を失ったように窓の外に視線を戻した。


午後の太陽の光が、彼女の横顔を眩しく照らしている。

「まあ、どうでもいいけど。変な人」


会話終了。

AIの指示通りに動いたにもかかわらず、会話は一歩も進展しなかった。


むしろ、好感度は下がり、不審者認定された可能性すらある。


スマホの画面が激しく点滅している。

『重大なエラーが発生しました。推奨行動は自然体に見えなかったため、ターゲットに不信感を与えました。アルゴリズムが崩壊しています。』


冷たい電子音声が、頭の中で警報のように鳴り響く。


恋愛はゲームだと思っていた。

しかし、このヒロインは、俺の持つ最強の攻略本を一瞬で無効化してしまった。

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