アルゴリズムは恋を知らない~AIに頼った俺が、予測不能なヒロインに振り回されるまで~

寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

アルゴリズムは恋を知らない

最適解を求めた高校二年、恋愛はアルゴリズムで攻略できると信じていた

恋愛は、ゲームだ。

あるいは、最適化された数式。


そう信じていた。

いや、信じ込むしかなかった。


俺――真白悠真は、高校二年になって初めて、人生最大の「バグ」に直面していた。

勉強、運動、友人関係。


これまでの人生、すべてをデータと効率で攻略し、理想の結果を出してきた。

しかし、恋愛だけは違った。


クラスメイトが「彼女」という名のトロフィーを獲得し、感情論という名の不確定要素で盛り上がっているのを横目に、俺はただ傍観していた。


感情はノイズだ。

不確実なものは、極力排除すべき。


だから、俺は最新の恋愛サポートAI《Cupid》をインストールした。


「確率論と行動心理学に基づき、ユーザーの理想とする恋愛を99.9%の確率で成就させます」

この謳い文句が、俺の「バグ」を修正する唯一の最適解だと思えた。


六月の初夏、まだ梅雨の気配を残す蒸し暑い放課後の教室。

俺はスマホを握りしめ、ターゲットを確認した。


ターゲット:窓月紗月(クラス随一の自由奔放な美少女。写真部所属。)

目標:第一接触を成功させる。


『現在の好感度:10%。成功率を上げるには、まずポジティブな印象を与え、接触回数を稼ぐ必要があります。』

『推奨行動:笑顔で挨拶しましょう。特に、目を見てから2秒後に口角を上げると効果的です。』


「笑顔で挨拶……」

俺は窓ガラスに映る自分の顔を確認した。


ぎこちない。

まるで壊れたロボットのようだ。


しかし、AIが導き出した最善手だ。

やるしかない。


大きく深呼吸をし、窓際の席に座る紗月の元へ向かった。

光に透ける柔らかな茶髪が、初夏の午後の光を反射している。


頬杖をついて外を眺めるその姿は、まるで写真の被写体として完璧な「不確定要素の塊」だった。


俺はスマホのバイブレーションを合図に、指示通りにぎこちない笑顔を作った。

「……お、おはよう」


紗月がゆっくりとこちらを振り向く。

その瞬間、俺の心臓はAIの予測値を無視して、激しく跳ね上がった。


だが、彼女の口から出た言葉は、アルゴリズムの予期せぬエラーとなった。

「ん? 誰だっけ、キミ」


……え、名前すら覚えられてない?

画面が激しく点滅し、即座に新しい指示が表示された。


『想定外のリアクションです。初期設定からやり直します。名前を自己紹介しましょう。「同じクラスの真白悠真です」』


俺の頭は真っ白だ。

AIの指示は正しいかもしれないが、この状況で「真白悠真です」と繰り返すのは、あまりにも不自然すぎる。


「あ、えっと……真白、悠真。同じクラスの……」


紗月は俺の言葉を途中で遮り、「あー、そうだったね」とあっさり笑った。


その笑顔は、あまりにも自然で、俺の作り上げた偽物の笑顔を、一瞬で無力化した。

俺は気づいていなかった。


この瞬間、俺の「恋愛攻略ゲーム」は、すでにアルゴリズムの支配下から逸脱し始めていたことを。

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