聖(ひじり)ゼンイチの優雅な生活③

午前7時。

都心の会員制クリニック、プライベートルーム。


私、聖ゼンイチは、今年4回目の「全身スキャン」を終えたところです。


「ゼンイチ様、PET-CT、MRI、遺伝子解析、すべて異常ありません。がんリスクは平均の30%以下、血管年齢は実年齢より15歳若い状態を維持されていますね」


担当医師が、タブレットに映し出された私の内臓を指差しながら説明します。


この検査、1回50万円。保険適用外です。


「予防に勝る治療なし、ですから」


私は窓の外を見ます。

満員電車がゆっくりと動いています。

あの中に、今日も健康診断を「忙しくて行けない」人々がいることでしょう。


不思議ですね。


彼らも私も、同じ制度に保険料を払っている。

健康保険料約5%、厚生年金保険料約9%、40歳以上なら介護保険料約2%。給与の約15%です。


でも、この50万円の「先回り医療」を受けられるのは私だけ。


なぜでしょうか。


その仕組みを、今日は丁寧にお話しします。


第1章:変換の起点―見えない引き落とし


まず、確認させてください。


あなたの給与明細、最近見ましたか?


記録によれば、年収500万円の独身サラリーマンの場合、社会保険料として年間約75万円が天引きされています。所得税・住民税の合計が約25万円程度ですから、実は税金より重い。


でも、不思議なことに、多くの方は「税金が高い」とは言いますが、「社会保険料が高い」とはあまり言いません。


なぜでしょうか。


給与明細の最初に、静かに消えるからです。


あなたが受け取る前に、既に差し引かれている。抵抗する暇もない。


この「払っている感覚のなさ」こそが、制度を持続させる最大のエンジンです。


私も当然、保険料を払っています。額で言えば、おそらくあなたより遥かに多い。ただし、可処分所得に占める割合で言えば、私の負担感はあなたよりずっと軽い。


最初の非対称性が、ここにあります。


第2章:予防という名の選別


社会保険制度は素晴らしいものです。誰もが、病気になったときに最低限の医療を受けられる。建前上は平等です。


しかし、「病気になる前」はどうでしょうか。


記録によれば、所得階層別の健康診断受診率には明確な差があります。高所得層は90%以上、低所得層は60%台。がん検診受診率では、高所得層50〜60%に対し、低所得層30〜40%。


約30ポイントの差です。


なぜこの差が生まれるのか。


理由の第一位は「時間がない」

第二位は「費用の問題」


つまり、検診を「受けない」のではなく、「受けられない」。シリーズ②で記録したように、時間は既に別の用途に配分されている。そして、標準的な健診以上の精密検査には、保険が適用されません。


私の場合は、年4回、50万円のプレミアム人間ドックを受けています。PET-CT、全身MRI、遺伝子解析、腫瘍マーカー30項目。


標準検診が「症状」を探すとすれば、私の検査は「兆候」を探します。


がんの芽が、1ミリになる前に見つかります。


この差が、10年後の生存率の差になり、20年後の健康寿命の差になる。


そして、この「先回り医療」の資金源は、どこから来るのでしょうか。


第3章:医療費という中継地点


社会保険料は、病気になったとき、病院の支払いに使われます。その支払いは、医療機関へ流れます。


医療費の内訳を見てみましょう。人件費約50%、薬剤費約20%、医療機器費約10%。このうち、薬剤費と医療機器費は、製薬会社や医療機器メーカーの売上として計上されます。


これらの企業の多くは上場企業です。売上が上がれば、株価が上がり、配当が増える。


記録によれば、私はヘルスケアセクターの株式を相応に保有しています。医療費が増えれば、ポートフォリオの評価額も上昇します。


そして、その配当金の一部が、私の「予防医療投資」に配分されます。50万円の人間ドック、月額30万円のパーソナルトレーナー、1回10万円のアンチエイジング点滴。


社会保険料が、医療産業を経由して、健康投資資金へ変換される。


この過程で、中継地点として「高齢者の医療費」が可視化されます。そのため、多くの方の注意はそこへ向かいます。


しかし、高齢者は、ただ資金を中継しているだけです。ベルトコンベアを叩いても、あなたの体は楽になりません。


その間、私はその喧騒をBGMに、予防医療を楽しんでいます。


効率的な構造ですね。


第4章:健康寿命の質的変換


ここからが、本質です。


同じ社会保険制度のもとで、同じ保険料を払っているのに、健康寿命に差が生まれる。


なぜでしょうか。


表面的な答えは「生活習慣の差」です。しかし、構造を見ればもう少し複雑です。


「健康でいるための余裕」の有無です。


長時間労働では、運動時間の確保が困難です。低賃金では、栄養バランスの取れた食事の選択肢が限られます。ストレス環境では、睡眠の質が低下します。そして、予防医療へのアクセスには、時間と費用が必要です。


記録によれば、低所得層の野菜摂取量が少ない理由の第一位は「価格」です。


つまり、あなたは安い加工食品を「選んだ」のではない。高い野菜を「諦めさせられた」のです。


その諦めが、少しずつ身体に蓄積されます。生活習慣病のリスクが上昇します。そして10年後、20年後、医療機関を訪れます。


そこで、保険診療による「標準治療」を受けます。限られた時間での診察。標準化された処方。


一方、私の場合は、毎朝6時、パーソナルトレーナーとの1時間のトレーニング。オーガニック野菜、低温調理された良質なタンパク質、医師監修のサプリメント。十分な睡眠、低ストレス環境。


そして、症状が出る前の精密検診。もし何か見つかれば、保険外の先進医療へのアクセスも可能です。再生医療、がん免疫療法。費用は数百万円から数千万円の規模です。


記録によれば、同じ80歳でも、最後の10年の過ごし方には質的な差があります。


ある場合は「白い天井を見上げる時間」、別の場合は「世界を飛び回る時間」。


これが、健康寿命の質的変換です。


平均寿命の数字は近づいています。素晴らしいことです。しかし、「生きている時間」と「生きられる時間」の差は、階層によって異なります。


第5章:この構造が見えない理由


この構造は、なぜ見えにくいのでしょうか。


記録によれば、いくつかの要因があります。


一つ目は、2008年に特定健診・特定保健指導が制度化されて以降、「生活習慣病」という概念が定着したことです。


病気が「生活習慣」、つまり「個人の選択」の結果として位置づけられる。


しかし、「選択」には「余裕」が前提となります。その余裕の配分は、必ずしも個人の意志で決まるものではありません。


運動時間の不足は、時間が既に別の用途に配分されている結果です。栄養の偏りは、選択可能な範囲の制約の結果です。


しかし、制度上の説明では「自己管理」という言葉が使われます。


この言語が、注意を内側へ向けさせます。構造を見えにくくします。


二つ目は、「高齢者の医療費が若者の負担を増やしている」という言説の可視性です。


これは事実です。

しかし、それは中継地点の記録です。


この言説に注意が向かっている間、別のレイヤーで動いている資金の流れは、見えなくなります。


興味深い現象です。


三つ目は、保険外の健康投資が統計に含まれないことです。


プレミアム人間ドック市場は、年間約1,000億円規模とされています。しかし、これは国民医療費約45兆円の統計には含まれません。


公式の記録に現れる数字は、「保険診療の医療費」のみです。その背後で動いている別のレイヤーは、不可視です。


第6章:時間と健康の複合変換


ここで、シリーズ②との接続について記録しておきます。


今日、睡眠時間を削って働いた2時間。その疲労は、記録によれば、10年後の心疾患リスクを少し上昇させる可能性があります。


上昇したリスクは、将来の医療費を増加させます。増加した医療費は、製薬会社の売上を押し上げます。その売上は、株主への配当を増やします。増えた配当は、健康投資資金を増やします。


そして、その資金で予防医療にアクセスすることで、心疾患リスクを低く保つことが可能になります。


今日の2時間が、10年後の健康に変換される。


変換には時間がかかります。だから気づきません。


そして、変換の結果生まれた「健康」が、さらに判断力を保ち、資本の運用を継続させ、次の配当を生む。


健康は、それ自体が資本として機能します。


第7章:制度への感謝


さて、クリニックを出る時間です。


会計を済ませながら、私は思います。


毎月、給与の15%が社会保険料として徴収されています。その制度が、この国の医療の基盤を支えています。


そして、その安定した基盤があるからこそ、私は安心して保険外の健康投資を計画的に行える。


もし制度が不安定化すれば、私にとっても望ましくありません。ですから、制度の継続性には、相応の意義があります。


病気になったとき、最低限の治療は保証されています。限られた時間での診察でも、標準的な処方は受けられます。それで、労働への復帰が可能になります。


効率的な仕組みですね。


一方、私の場合は、病気になる前の段階で予防します。予防が間に合わなかった場合でも、早期発見の確率が高い。発見した場合、最先端の治療へのアクセスも選択肢に含まれます。


そして、健康を保ったまま、生活を継続できます。


社会保険料が、間接的に、この構造を支える基盤となっている。


記録上、そのように分析できます。


エピローグ:午前8時15分


クリニックを出ると、爽やかな朝の空気が頬を撫でます。


次の予定は、午前10時からの某製薬会社の株主総会。


タクシーに乗り込みながら、スマートウォッチで今朝の株価をチェックします。


「おや、ヘルスケアセクター、また少し上昇していますね」


窓の外では、人々が足早に駅へ向かっています。


彼らの中に、今朝、体調が悪いのに無理をして出勤している人はいるでしょうか。


「病院に行く時間がない」と思いながら、電車に乗る人は。


その方々の保険料が、この国の医療制度を支え、その制度の安定性が、私の健康投資を可能にしている。


タクシーが動き出します。


私は小さく呟きます。


「次に健康診断の案内が届いたとき、思い出してください。


あなたの体は、誰のものとして記録されているのか。


その疲労は、どこへ変換されているのか。


答える必要はありません。ただ、感じてください。


記録は、それだけで十分です」


次回予告


シリーズ④では、あなたの「未来への投資」が、どこへ流れているのかを記録します。


教育費、住宅ローン、年金積立。


あなたが「将来のため」と信じて差し出しているもの。


それは本当に、あなたの未来に返ってきていますか。


変換の記録は、まだ終わりません。


—— 聖ゼンイチ


国民負担還元財団 名誉総裁

純粋資本主義を愛でる会 会長


※重要な注釈


※本記事の数値は、国税庁「民間給与実態統計調査」、厚労省「医療費の動向」等の公的統計を基にした概算・推計値です。


※「50万円の人間ドック」「製薬会社の株式」等は、社会構造における健康と資本の流れを可視化するための比喩的表現を含みます。


※重要なのは個別の数値の正確性ではなく、「健康の変換構造」そのものです。


※これは風刺作品です。

個別の医療相談・健康相談は専門家にご相談ください。


※このアカウントは、特定の個人・政党・企業を攻撃するものではありません。

あくまで社会構造の「健康の流れ」を記録する試みです。


参考データ:


- 国税庁「民間給与実態統計調査」(2024年版)

- 厚生労働省「医療費の動向」

- 厚生労働省「国民生活基礎調査」

- 総務省「家計調査」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る