第6話 家族

それからの数日、新婦は再び“村の一員”として静かに生活を始めた。

病院の敷地から出ると、誰もが微笑み、声をかけてくれた。


ある晩、ふと目覚めた彼女は、布団の中で泣いている自分に気づいた。


理由はわからなかった。

ただ、取り返しのつかない何かが、自分の内側で失われたことだけは確かだった


起き上がり、洗面所の明かりをつけた。

鏡の中に映るのは、確かに自分の顔だった。


数日後、彼女は自ら命を絶った。


「生ワクチンを接種したのが、約2週間前だから…。うん、ウイルス増殖のピークだ。摂取派も喜ぶだろう」


医師は"彼女"を見ながら微笑んだ。


夫は腕を組んで頷いた。


「だから、私はワクチン接種の方が良いと言ったんだ。年寄り達は結納前にワクチン接種の話をすると、村に嫁が来なくなると言うが、来ても死んだら意味が無い。今回の件、次の村会での説明に使おう」


義理の母も静かに頷いた。


「……あの子は、いい娘だった。ちゃんと食べたのにね」


遠く、冷凍庫の開く音がした。

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家族 ―村民の善意により、人体から精製されたワクチンを食べた花嫁― 鏡聖 @kmt_epmj8t-5

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