第4話 優しさ

夫と義理の母が見舞いに来た。

2人とも母体に異常が無いことが分かり、安心したようだ。


「今回は大変だったね。でも責任を感じないで。次は大丈夫よ」

義理の母は手を握りながら温かい言葉をかけた。


「そうだよ。最初は仕方が無いんだ。上手くいくこともあるけど、それは運の問題だからね。科学の進んだこの時代に、前時代的な風習にこだわり続けるのがいけないんだ。ここの人たちは古いからな。やり方がよくないんだ」

正義感の強い夫は、苛立ちを隠せていないようだ。


「でも本当に無事で良かった。ここでゆっくり体調を整えて帰ってきてくれ。家で待っているよ。」


そう言い残すと、2人は彼女の言葉を聞かず、部屋から出ていった。


新婦は天井を見つめる。

状況を整理してみよう。

私は風土病に感染して…


今までの出来事に思考を巡らせようとした時、部屋のドアが勢いよく開いた。


「すみません。お伝えし忘れていました」

「僕、ワクチンの話が好きすぎて、忘れちゃっていました。ごめんなさい。このワクチン、公的保険が適用されない自由診療になります。自由診療というと、高額なイメージをお持ちかもしれませんが、心配しないでください。村の皆んなで費用を負担しますから、あなたは何も心配しなくて良いです。想像していた以上にウイルス活性が高くて、生ワクチンでしたら今日接種出来そうです。こちらの書類にサインをいただけますか?」


新婦は医師の方に顔を向け、困惑した表情を示した。


「そうか。まだ起き上がって字を書くのは難しいですよね。こちらとしたことが、申し訳ないです。旦那様の方にサインをいただいておきますので、ご心配なさらず。さっきまで病院にいらしていたから、まだ間に合うかな」


と言い残し、医師は足早に部屋から出ていった。

新婦の額には脂汗が浮かんでいた。

部屋から出ようと、体をくの字に曲げ、痛みに耐えながらドアを開けて廊下に出た。


「あら、おトイレですか?気が付かずに申し訳ありません。トイレはこちらです。お付き添い致しますね。」


まだ若い、おそらく25、6歳であろう溌剌とした雰囲気の看護師は、優しく新婦の腰を支え、一緒に廊下を歩いた。


「それでは外で待っていますから」


看護師と別れ、トイレに入った新婦は、鏡を見た。そこに写っているすがたは間違いなく自分であり、少し疲れた表情はしているものの、特に変わった所は見られない。


外に出ると、先ほどの看護師が笑顔で迎えてくれた。

「さ、戻りましょうか」

彼女は左手を優しく腰に当でた後、右手で彼女の手を優しく握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る