第2話 兆し
村の暮らしにも、少しずつ慣れてきた頃だった。
山道の勾配も気にならなくなり、井戸水の冷たさを心地よく思うようになった頃。
彼女は身籠もった。
家族はとても喜んだ。
だがその喜びの中に、どこか、うっすらとした影があった。
何かを気遣うような沈黙が、ときどき食卓の上に落ちた。
それを彼女は、長くは咎めなかった。
数週間が経ち、彼女は体の不調を訴えるようになった。
それを医師に伝えた日の夜、腹部に鈍い痛みが走った。
そのまま、流産した。
医師は言葉をかけなかった。
冷たくなりかけた小さな躯をタオルに包み、静かに持ち上げると、
そのまま黙って奥の部屋へと運んでいった。
しばらくして、何かが閉じる音がした。
乾いた金属音だった。冷蔵庫か、冷凍庫か──そんな類のもの。
彼は戻ってこなかった。
新婦は、かすかに眠っていた。
熱っぽい体を冷やすために窓を開けると、遠くで誰かが話しているのが聞こえた。
医者と、誰かの声。
「少し古かったからな。しかし、今度は大丈夫だろう」
「ああ、鮮度、時期ともに問題ないはずだ」
彼女ははっとして起き上がった。
医師の言葉が、夢に溶けて聞こえた気がした。
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