俺の最愛なる虚空

@Saitath

君のために

「あ、今日も来てくれたんだ!」

 ——今日も此処へと、俺はやって来てしまった。

「ああ、久しぶり」

「ええ〜?久しぶりかなあ〜」

「俺からしたら——久しぶり以上だよ、久しぶり以上」

「え〜、何それ〜笑笑」

 そう言うと、彼女はクスクスと笑う。

「此処に居ると、現実世界の全てを忘れられるようだよ」

「現実世界って——ここ、現実世界でしょ?」

「ああ、そうだな——夢見心地すぎて夢かと思っちゃった」

「ふふ、何それ〜笑笑」

 ——夢見心地、か。

「あ、ねえねえ、最近学校どう?」

「俺のお母さんと同じこと訊いてる」

「え〜?私、君のお母さんと同じぐらいの年齢だったのか〜」

 ——だとすると、君はもう死んでることになっちゃうよ。

 君はまだ死んでないのに。死んで——ないのに。

「最近の学校のことだっけ——?もう学校、行ってないから分からないかも」

「え——?不登校?大丈夫?何かあった?」

「それを言ったら君だって。どうして学校に行けないんだい?」

「そ、それは——」

 彼女は一瞬、何かを口走りそうになる。

「さ、さあ——どうしてだろうね!」

「まったく、困ったヤツだよ君は」

 ——本当に、困ったヤツだ。

 俺は君とまた

「それ以上はダメ」

「そっか、ごめん——」

「楽しい話だけしよ?重い話は——ここじゃなくていい」

「そうだよな、重い話は——現実世界だけ」

「——今日も君は、失敗しちゃったんだよ」

「だって、君に会う方法が分からないから」

「私、待ってるんだよ?」

「どこで待ってるんだってんだ」

「それはね——私も分からないの」

 そうか、分からないのか。

「なあ、俺さ、お前のことが——」

 そこで俺は目が覚めた。

 時刻はまだ夜中。未だに、40年前に好きになったあの少女が夢の中に出てくる。でも——あの子は、ある日突然、世界から消えた。俺の部屋で待ってた、あの子は。

 ——未だに俺は、夢に見る。消えた少女との夢を。明日も、明後日も——永遠に、覚めることが無ければ良いのに。

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