第7話 世界は、彼を見逃さない
その異変は、数字から始まった。
世界探索者ランキング。
週次更新。
久瀬アラタの名前が、そこに載った。
順位:十二位
それは、本来あり得ない位置だった。
世界ランキングは、単純な討伐数では決まらない。
危険度、貢献度、生存率、影響力。
あらゆる要素が加味される。
無名のソロ探索者が、
いきなりこの位置に来ることは――ない。
◇
「……上がりすぎだ」
更新を確認したアラタは、端末を閉じた。
想定より、早い。
いや、早すぎる。
これでは――。
視線を、ミオに向ける。
彼女はテレビを見ながら、洗濯物を畳んでいる。
「ねえ、お兄ちゃん」
「何だ」
「最近さ、探索者のニュース多くない?」
胸が、わずかに跳ねた。
「そうか?」
「うん。ランキングとか、特集とか」
ミオは、何気ない顔で続ける。
「……有名になるのって、怖いね」
その一言が、胸に刺さった。
◇
翌日、EMBから正式な通知が届いた。
封書。
電子ではない。
それ自体が、異例だった。
内容は、簡潔だ。
面談要請。
拒否権なし。
理由は、書かれていない。
「……来たか」
アラタは、静かに封を閉じた。
◇
面談室には、三人がいた。
柊カナエ。
そして、見知らぬ男女。
一人は、軍関係者。
もう一人は、国際探索者連盟の代表だと名乗った。
「久瀬アラタさん」
代表の男が、穏やかに口を開く。
「あなたは、現在、世界ランキング十二位」
「注目されています」
アラタは、黙って聞いている。
「あなたの戦闘記録は、異常です」
「スキル不明、魔力測定不能」
「それでいて、ガーディアン級を単独で」
男は、微笑む。
「危険だと思いませんか?」
「……何が」
「あなた自身が、です」
◇
軍関係者が、低い声で言った。
「国家としては、管理下に置きたい」
「保護、という名目で」
それは、半分は脅しだった。
アラタは、即答しなかった。
代わりに、尋ねる。
「拒否したら?」
「制限がかかる」
ダンジョンへの入坑制限。
装備の供給制限。
遠回しな、封じ込め。
柊が、静かに言った。
「……あなたを守るためでもあります」
「そういう建前ですね」
アラタの返答に、空気が一瞬張りつめる。
◇
国際連盟の男が、話題を変えた。
「逆に、こちらの提案もあります」
タブレットを差し出す。
「世界合同ダンジョン攻略」
「トップテンが集まる、特別編成です」
世界ランカーと、肩を並べる。
いや、監視される場所。
「参加すれば、あなたは世界に認められる」
「拒否すれば――」
その先は、言わなくてもわかる。
◇
面談は、それ以上進まなかった。
「返答は、三日以内に」
それだけ告げられ、アラタは解放された。
建物を出ると、空がやけに広く見えた。
――選択肢は、二つ。
管理されるか。
表に出るか。
どちらも、ミオを危険に近づける。
◇
夜。
ミオは、少し緊張した様子で言った。
「ねえ」
「最近、変な人来てない?」
来ている。
家の周囲に、気配が増えている。
「気のせいだ」
「……ほんと?」
嘘だ。
だが、言えない。
「ミオ」
「何?」
「もし、俺が少し有名になったら」
「……嫌?」
ミオは、少し考えてから答えた。
「嫌、というより……怖い」
「でも」
アラタを見る。
「お兄ちゃんが決めたなら、信じる」
その言葉が、重かった。
◇
その夜、アラタは眠れなかった。
勇者だった頃、選択はなかった。
だが今は、違う。
世界が、彼を放っておかない。
それでも――。
「……俺は、逃げない」
呟いた声は、静かだった。
選ぶのは、自分だ。
そして、守るのも。
久瀬アラタは、初めて
世界と正面から向き合う覚悟を決めた。
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