第3話
んで、話を戻す。
「俺を拉致したのは菅原先輩で、えーっと……共犯者は?」
「パートの氏原さんと、社員の小手指さん?」
「……それ以外は?」
「いませんっ!!」
「あっそう……」
お手製感バリバリのデスゲーム(?)から逃げ出し黒幕との一騎打ちに挑んでる俺は、照明を付けたうま寿司品川ブラックパレス店の店内で、海鮮丼(先輩のおごり)を食べながら話を聞く。なおこれを出されなかったら普通に帰ってた。
「で、えーっと……菅原先輩は……」
「先輩って呼ばれるとむずむずするから、呼び捨てでも良いよ?」
「……菅原さんは、なんで俺を拉致ったんですか?」
「審査してもらいたくてっ!」
「……デスゲームを?」
「はいっ!!」
元気よく手を挙げた、同じ高校の3年生――菅原晴香先輩は、まぁ有名な女子生徒だ。
何が有名って、美人とか、スポーツとか、逆に不祥事とか――そういったものではない。奇行で、有名な先輩なのだ。
中でも一番有名なのは、深夜に学校に忍び込み全裸になってプールで泳いでた『全裸プール事件』だろうか。それとも、男子が居る教室で、授業中「あっつ!」って叫んだと思ったら突如ブラジャーを抜き取って窓枠に引っ掛けて乾かしてた『ブラジャードライ事件』だろうか。それとも男子剣道部の更衣室に忍び込んで――以下略。
とまぁ、変な先輩だ。
俺もとある事件から関わることになったが、まぁインパクトが凄い先輩だった。なんというか、あまりに考えなしすぎて。
顔は、可愛い。そしておっぱいが、すっごいでっかい。
男子高校生はまず胸を見る。次に顔を見るとされるが、胸も顔も、まぁ98点くらいある。だが、モテない。致命的なまでにモテないのは、初デートで勝手に高級フレンチを予約して奢らせようとしたという噂まである、その読めなさ故だろう。
なんというか、この人は致命的に空気を読めない。そして、自分の中の常識だけで突っ走るタイプなのだ。
そのお陰で――
「採点します」
「ドュルルルルルルルル――」
効果音付きなんだ。
「2点」
「5点満点で?」
「100点満点でだよ!!!!」
なんだその自己肯定感は!!
「な、なんで!? 何がいけなかったの!?」
「全部」
「全部っ!?」
「加点が付いたのは、拉致の仕方だけかな。俺も油断してたのはあるけど、このスタンガン――」
めっちゃゴツい、国内じゃ買えなそうな改造スタンガンだ。絶対護身用で売れないやつ。
「これたぶん、当てるとこが悪かったら死ぬ」
「えっ!? 小手指さんに借りたんだけど!?」
うま寿司社員の小手指さん何者だよ。傭兵かなんかか?
「背中からで、腰あたりだから気絶で済んだけど……、たぶん心臓とかに押し付けたら死ぬ。拉致から殺しに来る本気度で2点加点、残りは加点要素が一つもなかったから、2点。以上採点終了」
「も、もっとないの!? 改善点とか!!」
両手をぎゅっと握ってくる。うわ女子の手あったけぇ。体温40度くらいある? すっと眼を逸らした。
「……というか、まず――」
「ま、まず?」
「密室にしては光入りすぎ」
「えっ」
びしっ、と店内に指を向ける。窓には暗幕が下ろされているが、所詮が商業ビル内のテナントだ。光はどこからでも入ってくる。
「あと、拘束が甘すぎ。こんな拘束じゃ、プレイヤーは『攻略するか』じゃなくて『逃げるか』って思考に入るよ」
「なっ、なんで!? 攻略したらお金貰えるのに!?」
「……いくら?」
「えっと……どうぞっ!!」
突き出されたのは、渋沢のおじさんが書かれた紙だ。いち、に、さん、し――
「……5万」
「どうかなっ!?」
「デスゲームに付き合うには安すぎるかなぁ……」
「えっ!?」
たぶん拉致した時に回収したであろう俺の通学鞄を見つけたので、そこからスマホを取り出し、銀行アプリを開いて菅原さんに見せる。
「これ、俺の口座」
「……ごめんゼロいっぱいあってすぐ分かんない。ここが10万、ここが……億。……72億? あれ? 嘘だよね?」
「マジですけど」
「何したの? 株?」
「デスゲーム」
「でっ、デスゲーム!? なんでこんなに!?」
「なんでって……、大手のビッグタイトルだと賞金億単位なのもザラだし……」
「そ、そうなの!?」
「デスゲーム系の番組とかあんま見ないですか?」
「み、見てるよ?『朝まで閉じ込めまSHOW』とか……」
「あー、バラエティ系ね。ああいうのは賞金ウリにしてないからなぁ……」
バラエティ系のデスゲームは、お茶の間に流しても問題ないような、血も出ないし人も死なない、参加者も芸能人とかお笑い芸人みたいな、プレイヤーでない人ばかりだ。
そういうのをプレイヤー上がりのコメンテーターとかがコメントしながら視聴者や観戦者と一緒に笑っていく、低難易度のデスゲーム番組である。
「金かかってるデスゲームが見たいなら、『Clock DOG』とか、『Wonder Tower』みたいなネット配信見るべきですよ」
「あ、クロックドッグ知ってる! ……なんか、血がいっぱい出るのが怖いんだよね」
「お前クリエイター向いてないよ!!!!」
「えっ!?!?」
思わず叫んじゃった。
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