第2話

『デスコン第7回最優秀賞作品『CUBE』からついに脱出者が!?』

『賞金7億を手にしたのは――小学2年生!? ついに『惡鳥あくとり』の後継者誕生か』

『天才小学生現る。生還率0.1%のデスゲームから僅か31日で脱出』


 とある小学生が、デスゲームを攻略した。

 それは、デスゲームが娯楽と化している現代を揺るがす事態であった。


 世は大デスゲーム時代。

 デスゲームを企画・制作する『クリエイター』が、企業に自らのデスゲーム企画を発表する場――デスゲームコンテスト、通称『デスコン』。

 ネットでの読者投票の後、企業のお偉いさんが選んだデスゲームのクリエイターには、数百万の報奨金が支払われる。

 中でも最優秀賞となると、数千万の額で買い取られることもザラだ。


 デスゲームを攻略するのが、『プレイヤー』たち。

 大体は金目当て。だが、一歩間違えれば死ぬデスゲームを生業している奴らがまともな人間であるはずがない。

 大昔――無作為に参加者が選ばれる、強制参加型デスゲームが一世を風靡していた時代であれば違ったかもしれない。だが今のプレイヤーは、生業としてデスゲームをしている者がほとんどである。


 そんな現代でも、1位以外が全員死ぬようなデスゲームは流行らない。

 いかにプレイヤーにと思わせるか、それを見ている人がドキドキするか――そういう点に主軸を置かれるようになったのだ。

 デスゲームがここまで一般化した現代において、デスゲームは最早、ちょっと過激なバラエティ番組のようなものである。

 

 金切かなきりつとむ――高校2年生。

 学業平凡、スポーツ平凡、見た目も普通の男子高校生――だがその正体は、『あざな』と呼ばれるデスゲームプレイヤー。


 デスゲームの通算攻略回数、79回。脱出率100%。これはデスゲーム界に伝説を残して死んでいったプレイヤー、『惡鳥』の後継者を彷彿とさせる成績だ。

 惡鳥の成績は通算攻略回数329回、脱出率97%というものだが、主に彼が参加していたのは一般大衆向けの娯楽になる前の、黎明期のデスゲーム。

 最期のゲームに挑んだ『惡鳥』は、片目欠損、残る片目の視力もほとんどなく、両足はあるが足指は全てなく、左腕は肩から先が欠損、内臓も半分以上が摘出されていた。

 そんな彼が挑んだデスゲームで不慮の事故が――、

 普通に攻略して、普通に賞金を受け取り、そしてアル中からの不整脈がたたって心臓発作を起こして亡くなった。享年37歳。デスゲームがここまで娯楽化したのは、彼の功績によるところが大きいだろう。


 それから、『惡鳥』の後継者と呼ばれたプレイヤーが、無数に生まれていった。

 だが彼らは、どこかでデスゲームを続けることをやめてしまった。そりゃ死んで辞めた奴もいるけれど、ほとんどが自分の意思で辞めていったのだ。


 理由なんて、一つしかない。

 

 『惡鳥』のように、生涯をデスゲームに捧げたわけでもないのなら、何十億か稼いだ時点でプレイヤーを辞め、知名度を活かしてインストラクターになるとか、テレビのコメンテーターになるとか、デスゲームの運営企業に入ってアドバイザーになるとか――、安定したルートに入る奴ばかり。


 今の娯楽化したデスゲームにおいて、いつまで経ってもプレイヤーであり続ける奴はそこまで居ない。だって、


「……俺もそろそろ辞めっかなぁ……」


 顔見知りのプレイヤーが引退宣言をしている配信を見ながら、ボソリ、と漏らす。

 俺がまだデスゲームを続けてるのは、特に辞める踏ん切りがつかないからでしかない。

 毎回クリアする時には「二度とやるか!」って思うんだけど、新しいデスゲームの企画とか見てるとやっぱやりたくなっちゃうんだよな。

 命賭けのスリル、超高難易度のデスゲームを完全攻略した時に放出される脳内麻薬ドーパミン――、あれは、デスゲームでしか味わえないものなのだ。


 真夜中にスマホを見ながら歩いていたのがいけなかったのだろうか。

 それとも、油断していたから?


 強制参加型のデスゲームには何年も触れていなかった俺は、油断していた。

 まさか、この時代にそれをやろうとしてる奴が居るなんて――


 背後から電流を流され、薄れゆく意識の中、俺は「賞金、いくらかなぁ……」なんて考えていた。

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