致命的にデスゲーム作りが下手な、うま寿司バイトの菅原さん

衣太@第37回ファンタジア大賞ほか

第1話

「いてっ」


 パチって来た。


『ど、どうですか!? 死にそうな電流、浴びました!?』


 頭上にあるスピーカーから、女の声が聞こえる。わくわくどきどき、そんなオノマトペが見えてくるようだ。


「うーん、静電気かなぁ……」

『えぇぇええ!?!?』

「そもそもの話すると、電気ってあんま拷問に向かないんだよね」

『えっ?』

「威力上げすぎると普通に死ぬし、低すぎると静電気。デスゲーム的にはさ、死なないけど死ぬほどのダメージを継続的に与えるか、死ぬかもと思わせないといけないんだよ」

『ふむふむ……』


 かりかり、とメモする音がスピーカーから漏れてくる。


「その点、電気はダメだ。いや罰ゲームで殺す時に使うんなら別に良いんだよ? でも殺すつもりじゃない程度の電気流れても、ダメージはなぁ、ちょっと痛いくらいだし」

『な、なるほど……』

「あと、これ」


 俺は今、後ろ手に手錠をされ拘束されているが、手をぐいっ、と上に持ち上げ――


「ほら」

『え?』


 はい、いつの間にか、手は前に。もちろん、手錠は付いたままだ。関節が柔らかければ普通に出来るよ。


「デスゲームで拘束って定番だから、プレイヤーは大体このくらい出来る」

『ええええええ!? 待ってください今なんで!? 腕!? 腕の可動域おかしくないですか!?』

「関節緩めて拘束外すとか、肩外すとか、最低条件でそのくらい求められることはあるし」

『は? ビックリ人間ショーの話してます?』

「違う違う。んで、前に来ちゃえば――」


 右手親指の付け根あたりを左手で包み込むようにして、――ゴリッ。


「ほら外れた」


 両手を拘束していたはずの手錠は、左手からぶら下がるオシャレなアクセサリーになりましたとさ。

 実は手錠のサイズってあんまりバリエーションないから、普通に付けるとスカスカなんだよね。


『えっ!?!? 今何しました!?!?』

「親指の関節外して手錠抜いただけだけど?」

『中国雑技団かなんかの技見せられてます?』

「普通のデスゲームプレイヤーだよ!」

『それ普通に出来るんですか!?!?』

「さっきも言ったけど、このくらいは出来る前提で組まれてるデスゲームはいくらでもあるからね。問題を解いた上で30cmもない穴から脱出しないといけないとかあったし」

『???? どうするんですか?』

「全身の骨外して無理矢理出る」

『やっぱ雑技団じゃないですか!!!!』


 あれは厳しかったなぁ。最初の一人が「あ、こっから出るんだ」って気付いて、皆当たり前のように関節外して通ってくんだもん。絶対後に続く全員(マジで?)って思いながら通ったよね。

 正解ルート以外の裏技の可能性もあったけど、穴抜けた先に次のステージあったからマジで30cmもない穴を抜けるのが正解ルートだったっぽいよね。殺す気か? いや殺す気だよ。デスゲームだもん。


 というわけで、拘束も解かれたので立ち上がる。完全な暗闇――に見えるが、別にそんなことはない。

 頭の中で描いた地図通りに歩いて、声のする方向に向かうと――


「ほら見つけた」


 そこには、バックライトを限界まで暗くしたノートパソコンの前に立つ女性がいた。


「えええええ!?!? どっ、どうしてここが!?」

「音。密室で喋ってたらどこに居るかくらい大体分かるし」

「ごめんなさい、私イルカと話してます?」


 あれかな、ここ、キッチンか。この配置、臭い――、椅子の材質から薄々勘付いてたけど、ここは――


「……えいっ」


 女性は手元にあったスタンガン――を俺に向けてくるので、手首を握って止める。


「いっ、いだぁ!! 万力!? 万力ですか!?」

「最近は減ったけど、最後の一人になるまで殺し合え系のデスゲームもあるから、プレイヤーは皆徒手空拳から武器の扱いまで慣れてるもんだよ」

「ごっ、ごめんなさい犯さないで!」

「自己肯定感たっけぇなぁ」


 手首をぐいっ、と持ち上げる。


「ひっ!?」

「そろそろ帰っていい?」

「こ、ここがどこかも分からないのにどうやって帰ると!?」

「うま寿司品川ブラックパレス店」


 高速レーン寿司チェーン。そして今の時間は、大体3時くらいか。拉致されてから目が覚めるまで4時間ってとこかな。

 腹時計で大体の時間は把握出来る。目を覚ました時間が攻略に必要な情報となるのも、デスゲームあるあるだ。


「なっ、なんでそこまで!?」

「俺、一度来たことあるとこなら大体分かるんだよね」

「完全記憶能力者とかですか?」

「いや普通の男子高校生だけど……」

「普通の男子高校生がデスゲームに挑んだら覚醒しましたってかぁー!?」

「いや俺小学2年生の時からやってるし……」


 女性は「きぃーっ!」と甲高い悲鳴を上げると(猿か?)力を抜いた。

 スタンガンがカタン、と落ちる。床に落ちる寸前、足先で衝撃を殺しておいた。たぶん結構高いやつだから。


「……んで、菅原先輩。どうしてこんなことをしたのか聞いても?」

「はい……」


 さて、黒幕との対談タイム。

 ――といっても、俺の目の前にいるのは、ただの高校の先輩でしかないのだが。

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