第2話 癒しの力
翌朝、セラは村のざわめきで目を覚ました。
外が、騒がしい。
扉の向こうから、抑えきれない声がいくつも聞こえてくる。
「本当に治ったんだって」
「血だらけだったのに、跡もない」
「夢じゃなかったのか……?」
胸が、きゅっと縮んだ。
――私の、せいだ。
昨夜の出来事が、はっきりと思い出される。温かさ。光。命が戻る感触。
けれど、それと同時に、怖さもあった。
自分が何をしたのか、正確にはわかっていない。
「……失礼します」
控えめなノックのあと、扉が開いた。
入ってきたのは、見慣れない青年だった。年は二十歳前後。簡素な鎧に身を包み、腰には剣を下げている。
「俺はレイン・グラド。王都から派遣された騎士だ」
騎士。
その言葉に、セラは背筋を伸ばした。
「昨夜の件を確認しに来た。君が、治したと聞いた」
疑いの視線ではない。だが、信じ切ってもいない。
「……はい。でも、特別なことは」
「計測水晶を壊したのも?」
言葉に詰まる。
レインは小さく息を吐いた。
「責めているわけじゃない。ただ……放っておけない力だ」
そのとき、外から悲鳴が上がった。
「子どもが! 息をしてない!」
考える前に、セラは立ち上がっていた。
小屋の外、若い母親が泣き崩れ、腕の中には幼い男の子がいた。顔は青白く、胸はほとんど動いていない。
「お願いします……!」
セラは膝をつき、そっと子どもの額に触れた。
冷たい。
――間に合って。
祈るように目を閉じる。
光が、静かに広がった。
今度は、昨夜よりもはっきりと感じる。
魔力が、自分の中に溢れている。尽きる気配がない。怖いほどに。
数呼吸のあと、子どもが小さく咳き込み、弱々しく泣き声を上げた。
「……あ……」
母親が、声にならない声を漏らす。
村人たちは、息を呑んで見守っていた。
セラは、ほっと肩の力を抜いた。
「よかった……本当によかった……」
その様子を、レインは黙って見ていた。
やがて、静かに言う。
「君は、自分の力がどれほど危ういかわかってるか?」
「……いいえ。でも」
セラは、まっすぐに彼を見た。
「目の前で苦しんでいる人を、放っておけません」
レインは一瞬、言葉を失った。
「……そうか」
その声には、剣よりも硬い覚悟が滲んでいた。
この日から、ノーウェン村に人が集まり始める。
病人、怪我人、噂を聞きつけた旅人。
そして同時に、
――この力を欲する者たちも。
セラはまだ知らない。
自分の“癒し”が、やがて世界の在り方を揺るがすことを。
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