第10話

「ば、化け物め……! 数で押し潰せ! 行け、リザードマン! アーチャー、射抜け!」


凍りついた自身の魔法を剥ぎ取りながら、バルカスが狂ったように叫ぶ。 だが、その光景はもはや「戦闘」ですらなかった。


「あるじ……リムが、道を創る」


銀の流体へと進化したリムが、戦場の中央へ滑り込む。放たれた無数の矢や魔法がリムに触れた瞬間、それらは光の粒子となって霧散し、逆に味方の傷を癒やす「慈愛の光」へと変換(リバース)される。


「ガアァッ!(我が王、守護は成った!)」


最前線に立つアイギスが、鋼の城壁となってリザードマンの突撃を跳ね返す。ただの一歩も退かず、逆に巨大な盾を叩きつけて敵の陣形を粉砕した。


「キィッ!(ご主人、隙を見つけました!)」


エコーが戦場のすべての音を解析し、最適な攻撃ポイントを仲間に伝える。 その情報を受け、ヴォルフが雷光となって戦場を縦横無尽に駆け巡る。


「ワオン!(ボス、仕留めるよ!)」


雷を纏ったヴォルフが敵の足を止め、その背後の影からシャドウが音もなく浮上した。


「……(主様。終焉を)」


シャドウの漆黒の刃が閃き、バルカスの護衛だったリザードマンたちの喉元を一瞬で切り裂いた。


「ひっ、ひいいっ! くるな、くるなあああ!」


バルカスは腰を抜かし、自陣のコアにしがみついた。 だが、俺は容赦しない。彼がさっきまで浮かべていた傲慢な笑みの代わりに、今は死への恐怖だけがその顔を支配している。


「バルカス。お前が言ったんだ。敗者には死を……勝者にはすべてを、ってな」


俺の合図と共に、ヴォルフがバルカスを跳ね飛ばし、アイギスがその巨大な盾で彼を地面に縫い付けた。 俺は一歩ずつ歩み寄り、亀裂の入った敵陣のダンジョンコアに手を置く。


俺の腕の中で、ゼニスの卵が激しく、そして冷酷に拍動した。 その振動が俺の指先を通じてコアへと流れ込む。


パキィィン――!!


凄まじい音と共に、バルカスのコアが粉々に砕け散った。


【ログ:敵陣営のダンジョンコア破壊を確認】 【勝者:[主人公] ―― 敗者:バルカス】


「やめろ……助けてくれ、俺はDランクなんだ、まだ死ぬわけに……!」


バルカスの体が、コアの崩壊に連動して黒い霧へと変わっていく。 断末魔の叫びは、魔神のシステムによって冷徹に遮断された。 彼が持っていた魔力、権限、そして所有していたすべてのリソースが、奔流となって俺の中へと流れ込んでくる。


そして、その膨大な情報の濁流の底で、一つの「異質な声」が響いた。


【特殊条件:圧倒的逆境(ランク差2以上)での勝利を確認】 【隠しスキル『逆境』を獲得しました】 【警告:このスキルの詳細は、現段階のシステムでは開示されません】


「……逆境、か」


俺の中に宿った正体不明の力。 バルカスの消えた跡地を見つめながら、俺はリムを肩に乗せた。 進化した配下たちが、勝利の静寂の中で俺の周りに跪いている。


俺たちは生き残った。 だが、これは10,000人が争い、5,000人が消える「実験場」の、ほんの序章に過ぎない。

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