第9話
「終わりだ。その出来損ないのスライムも、大事そうに抱えてる卵も、全部俺が踏みつぶしてやるよ」
バルカスの嘲笑と共に、頭上に巨大な『獄炎の嵐(ヘル・ストーム)』が形成される。 立っている者はいなかった。アイギスは盾ごと地に伏し、ヴォルフもエコーも焼けた体で荒い息をついている。俺自身の魔力も枯渇し、視界はどす黒く点滅していた。
その時、腕の中からこぼれ落ちた銀の塊が、俺の前にふわりと降り立った。
『……イヤ。あるじを、傷つけるのは……絶対、イヤ』
脳内に直接響く、透き通った、けれど怒りに震える声。 それは俺の半身、リムの声だった。
「なんだ、そのゴミは! 纏めて燃えカスになれ!」
バルカスの杖から、最大出力の劫火が放たれた。 絶望的な熱波が俺たちを飲み込もうとした、その瞬間――。
――世界が、反転した。
「……なっ!?」
赤かった炎が、リムに触れた瞬間に凍てつくような蒼白の冷気へと塗り替えられる。 リムの不定形の体が、核(コア)のように硬質で神々しい流体金属の姿へと変貌していく。
【ログ:個体名『リム』の覚醒を確認】 【真名(役職):『リバース(逆転)』の片鱗を解放】 【固有権限:『不条理なる反転』発動――受けた魔法の属性を反転し、還元します】
リムから放たれた蒼い衝撃波が、バルカスの魔法をそのまま本人へと叩き返した。 「ぎゃああああっ!?」 自分の魔法で凍りつくバルカス。その隙に、リムから溢れ出した銀の光が、倒れていた四体に降り注ぐ。
それは「増幅」を媒介とした、魂の**『連鎖進化』**だった。
「アイギス……みんな!」
俺の叫びに呼応するように、四体の姿が書き換えられていく。
【個体:アイギス――進化:『重装ゴブリン・ガード』】 (我が王の盾は、もう壊れぬ……!) その肉体は黒鋼の鎧と一体化し、バルカスの軍勢を遮断する絶対の城壁へと変じた。
【個体:シャドウ――進化:『スケルトン・アサシン』】 (主様、刈り取りの刻です……) 実体を持たない影へと姿を変え、リザードマンの急所を正確に狙い定める。
【個体:エコー――進化:『イヤー・ラビット』】 (ご主人様、心音の乱れまで聞こえていますよ……) 四本の耳が光を帯び、敵の全動向を脳内に強制同期させる。
【個体:ヴォルフ――進化:『ライトニング・ウルフ』】 (ボス、もう誰にも追いつかせないよ!) 銀の毛並みに雷光を纏い、一歩踏み出すごとに空間を跳躍する。
そして、俺の手の中でゼニスの卵がかつてないほど激しく脈動した。 進化の光に包まれた五体は、もはや「駒」ではない。バルカスという壁を粉砕するための、研ぎ澄まされた「牙」だ。
「……バルカス。ここからが、お前の絶望だ」
銀色に輝くリムを先頭に、進化した配下たちが、震えるバルカスへと歩みを進める。
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