第8話

「これが『ドベ』の全力か? 笑わせるなよ!」


バルカスの嘲笑が、闘技場の石畳に反響する。 当初、俺たちの連携は確かに機能していた。


エコーが敵の呼吸を読み、ヴォルフが死角を突き、シャドウが確実に隙を突く。 そして、どんな剛腕もアイギスの盾が真っ向から受け止める。その「役割」は、個々のスペックを補って余りあるほど完璧に見えた。


だが、バルカスが放ったのは、三体のリザードマンだけではなかった。


「……召喚。出ろ、『スケルトン・アーチャー』十体! 加えて『マッド・サラマンダー』五体!」


バルカスの背後から、次々と影が這い出してきた。 召喚制限はないのか? いや、違う。 彼は「同じ種族」こそ一度きりだが、豊富なリソースを使い、数多の「別種族」を揃えていたのだ。 Dランクマスターが持つ、圧倒的な物量。


「一、二……二十体だと……!?」


戦況は一変した。 アイギスが一体のリザードマンを抑え込んでいる間に、十本の矢が降り注ぐ。 ヴォルフが撹乱に走れば、サラマンダーの泥がその足を奪う。 どれほど精密な連携でも、十倍以上の数に囲まれれば、その継ぎ目から綻びが生じていく。


「ガァ……ッ!」


アイギスの盾に、リザードマンの重斧が叩きつけられる。 防戦一方。 俺たちのスキルは強力だが、発動するたびに俺の魔力を激しく消耗する。 対してバルカスは、自陣のコアから溢れる魔力を使い、湯水のように魔法を放ち続けていた。


「どうした? 逃げ回るだけか! 『ファイア・レイン』!」


空から降り注ぐ火の雨。 エコーが悲鳴を上げ、ヴォルフの銀毛が焼ける。 俺は這いつくばりながら、必死にゼニスの卵を抱え直した。


「みんな……下がれ……!」


魔力が底を突く。視界が点滅し、立っていることすらままならない。 バルカスが、勝利を確信したように杖を天に掲げた。


「終わりだ。その出来損ないのスライムも、大事そうに抱えてる卵も、全部俺が踏みつぶしてやるよ」


目前に迫る、最大級の魔法の予兆。 絶望が、冷たく俺の心臓を掴んだその時だった。


『……イヤ。あるじを、傷つけるのは……絶対、イヤ』


俺の腕からこぼれ落ちたリムが、俺の前に立ち塞がったのは。

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