第7話
「一時間か……十分だ」
嘲笑が渦巻く広場の片隅。俺は、鏡のような静寂を保つリムと共に、四体の配下、そして中心に据えた「卵」を囲むように座り込んだ。 バルカスは俺を無能と笑ったが、彼は知らない。テイマーの真価はモンスターを従えることではなく、その存在に**『意味』を与え、限界を超えて『増幅』**させることにある。
「ゴブリン、前に来い」
俺は、無骨な盾を構えるゴブリンの肩に手を置いた。こいつは常に俺の前に立ち、一歩も引かなかった。その献身を「絶対の守護」へと昇華させる。
「お前はただの盾ではない。敵の希望を砕き、主を不変の安寧へ導く楔。名は……『アイギス』」
【アイギス:仮の名を承認。スキル『金剛の盾』を獲得】 アイギスの身体が岩のように硬質化し、その瞳に守護者としての誇りが宿る。
次に、影に潜むスケルトンと、耳を澄ますラビットを呼ぶ。 「スケルトン、お前は**『シャドウ』。断罪の刃となり、音もなく敵の終焉を刻む死神だ」 「ラビット、お前は『エコー』**。戦場の全域を把握し、主へ勝利の予兆を届ける福音だ」
【シャドウ、エコー:仮の名を承認。特化ステータスが劇的に向上】
最後に、俺の足元で牙を剥くベビーウルフ。 「お前は**『ヴォルフ』**。仲間を繋ぎ、戦場を自在に駆ける風。お前がいて初めて、この軍団は呼吸を一つにする」
四体が「仮の名」を得た瞬間、俺のテイマーとしての魔力が彼らを結び、一つの巨大な回路を形成した。そして、その回路の中枢――激しく脈動する**「卵」**へ、全ての意識を注ぎ込む。
この卵の中に眠るのは、最下位(Fランク)の理を覆す、最強の種族――ドラゴン。 だが、今はまだ生まれる時ではない。こいつは、四体の役割(守護、断罪、索敵、機動)を吸収し、戦場そのものを支配する「王」として孵化しなければならない。
俺は卵の表面に、まだ見ぬ主への期待を込めて、その名を刻んだ。
「お前は……『ゼニス』。この戦場の頂点に立つ者だ」
ドクンッ、と卵が大きく跳ねた。 孵化こそしないが、その内側から放たれる圧倒的な魔力の波動が、リンク(回路)を通じて四体のモンスター、そしてリムへと逆流していく。
【仮の名:ゼニスを登録。特性:『未孵化の王(プレ・ロード)』】 【効果:生存する全配下のステータスを、主の魔力に応じて『増幅』する】
「……準備は整った」
俺の隣で、リムが期待に震えるように形を変える。 一時間の猶予が明ける。 俺は静かに、しかし確かな殺意を持って立ち上がった。
広場の中央では、バルカスがリザードマンを引き連れ、退屈そうに杖を弄んでいる。 「おいおい、ようやく遺言はまとまったか? ドベ」
「ああ。……お前から何を奪うか、それだけは決めたよ」
俺の言葉に、バルカスの顔が怒りで歪む。 周囲の空間が歪み、決闘用のバトルフィールドへの転送が始まった。
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