第6話

「……ふん、せいぜい喉を洗って待っていろ」


バルカスは吐き捨て、取り巻きのリザードマンと共に人混みへと消えていった。 魔神が告げたルールによれば、決闘の申し出から開始までには一刻(一時間)の猶予が与えられる。これは「駒」の性能を最大限に引き出した状態での潰し合いを、魔神が望んでいるからに他ならない。


「最下位(ドベ)がDランクに挑むなんて、見ものだな」 「一時間後には、あのスライムもどきもバルカスのコレクションか」


遠巻きに見守る他のマスターたちの嘲笑を背に、俺は広場の隅へ移動し、地べたに腰を下ろした。隣では、俺の動揺を察したのかリムが寄り添うように形を変えている。


「大丈夫だ、リム。……まだ、手はある」


俺は脳内のシステムを開き、輝きを放つ最後の一枠を見つめた。 初期召喚権、残り「1」。


準備期間中にあえて使わなかったこの一枠。ベビーウルフまでの四体で「群れ」としての機能は完成した。だが、格上のDランク……リザードマンを統率するバルカスを打ち破るには、連携をさらに一段上の次元へ引き上げる「核」が必要だ。


俺は精神を集中させ、召喚を起動する。 だが、願ったのは特定の種族ではない。テイマーとしての本能が求める「可能性」そのものだ。


魔法陣が展開される。しかし、現れたのは実体を持ったモンスターではなかった。 淡く発光し、脈動を繰り返す一個の**「卵」**。


【ログ:5体目の召喚を実行しました】 【個体名:未定(卵状態)】 【特性:未確定。マスターの資質・役割の付与により変化します】


「卵……? モンスターですらないのかよ」


通りがかったマスターが鼻で笑う。 だが、俺には聞こえていた。卵の中から響く、四体の配下たち――ゴブリン、スケルトン、ラビット、ウルフの鼓動と共鳴する、激しい生命の音を。


この卵は、俺が与える「役割」を吸って孵化する。 バルカスとの決闘まで、あと一時間。


「リム、お前の力も貸してくれ」


俺はリムを卵に這わせ、自身の魔力を注ぎ込み始めた。 テイマーの職能が、隠された能力**「増幅」**が、卵の中の「何か」を急激に作り替えていく。


Fランク最下位が、Dランクを喰らう。 そのための唯一の牙を、俺はこの猶予期間で研ぎ澄ませることに決めた。

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