第4話
スケルトンは、そこにいる。
存在感が薄い。
だが、消えてはいない。
ゴブリンが「立っている」のに対し、
スケルトンは「置かれている」。
同じ命令待ちでも、質が違う。
(受ける前提で作られている)
だからこそ、使いどころは明確だ。
だが――
融通は利かない。
リムは、二体の間をゆっくり移動している。
ゴブリンの前で止まり、
次にスケルトンの影に触れ、
また戻ってくる。
比較。
評価。
整理。
(参謀気取りだな)
まだ名も、役割も与えていないのに。
それでも、勝手に“全体”を見始めている。
(……悪くない)
俺は三体目の召喚を考える。
前。
影。
次に必要なのは――
(距離だ)
敵との距離。
罠との距離。
異変との距離。
今のダンジョンには、
それを測る存在がいない。
《召喚対象選択》
一覧が、再び展開される。
スケルトンはもういる。
**ベビーウルフは――まだ早い。**
速い。
繋げる。
補完できる。
だが――
**あれは、最初にどう使ったかで“役割が固定される”種族だ。**
今呼べば、
ただ走らせるだけの存在になる。
それは違う。
足は、
**繋ぐ相手が見えてからでいい。**
視線が止まったのは――
ラビット。
弱い。
脆い。
一撃で終わる。
だが、
説明文の端にある短い記述。
――感覚が鋭い。
(“戦わない強さ”だな)
リムが、少しだけ弾むように揺れた。
肯定に近い。
「これにする」
選択を確定する。
魔法陣が展開される。
今までよりも、輪が小さい。
消費魔力も、少ない。
だが――
立ち上がる気配が早い。
光が消える前に、
すでに“音”があった。
とん、と軽い着地音。
現れたのは、
小柄なラビット。
地面に降りた瞬間、
耳が大きく跳ね上がる。
視線を動かす前に、
まず――聞く。
(即応)
ラビットは、
ダンジョンの空間を一周するように首を振る。
右。
左。
上。
それから初めて、
俺たちを見る。
ゴブリンを見て、止まる。
スケルトンを見ると、ほんの一瞬だけ身を固くする。
最後に――
リムを見る。
その時だけ、
耳の動きが変わった。
(……魔力、か)
感じ取っている。
音だけじゃない。
ラビットは、
ゆっくりと俺に近づいてくる。
だが、
一定距離で止まった。
踏み込みすぎない。
離れすぎない。
(距離感がいい)
「自由に動いていい」
試すように言う。
ラビットは、
一瞬だけ迷い――
次の瞬間、走った。
速い。
だが、直線的じゃない。
壁際。
天井の影。
角。
止まり、聞き、また走る。
(探索だな)
誰も命じていない。
目的も与えていない。
それでも、
自分にできることを探している。
ゴブリンは、
その動きを目で追っている。
スケルトンは、
動かない。
だが――
ラビットが背後を通った時、
ほんのわずか、視線が動いた。
(……認識はしてる)
リムは、
ダンジョンの中央で止まり、
全体を見渡している。
ぷる、と一度。
《広がった》
「ああ」
俺もそう思った。
戦力は増えていない。
攻撃力も、防御力も変わらない。
だが――
見える範囲が増えた。
それだけで、
ダンジョンは一段階、上になる。
俺は、三体を順に見る。
前に立つ存在。
影に待つ存在。
走り、気づく存在。
(揃い始めてるな)
まだ、名は与えない。
仮の名すら、早い。
だが――
確実に、“役割”は生まれ始めている。
召喚回数:残り二。
時間は減っている。
だが、焦りはない。
リムが、俺の足元に戻ってきた。
《次は……》
「足、だな」
俺はそう答えた。
運ぶためじゃない。
速さのためだけでもない。
**繋ぐ相手が、もう見えている。**
次で、
ダンジョンは“線”になる。
最弱のダンジョンマスターは、
そう確信していた。
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