第3話
ゴブリンは、動かなかった。
命じた通り、
ただそこに立ち続けている。
姿勢は崩れない。
視線は定まらないが、逸れもしない。
(命令待ち、か)
忠実だ。
だが、それだけだ。
命令がなければ、判断しない。
判断しないから、失敗もしない。
安全。
だが――伸びない。
俺は、ダンジョンの中心から一歩引いて見る。
リムは、俺の足元で静かに揺れている。
さっきから、ゴブリンを見ている時間が長い。
(比較してるな)
リムは、命令を待たない。
指示がなくても、流れを読む。
役割を与えたわけでもないのに、
勝手に「そこ」に収まっている。
同じ下級。
同じ最初の一体。
それでも、明確な差がある。
(……だから、だな)
二体目は、
ゴブリンとは違う性質でなければ意味がない。
俺は、再び選択画面を開く。
《召喚対象選択》
一覧が並ぶ。
スケルトン
ラビット
ベビーウルフ
不明種族:卵
どれも、強くはない。
だが、役割が想像できる。
視線が、スケルトンで止まる。
骨だけの存在。
生命反応は薄い。
感情が乏しく、
命令には忠実。
――さっきのゴブリンと、似ている?
いや、違う。
ゴブリンは「理解しようとする」。
スケルトンは「理解を必要としない」。
(判断の外注先、か)
リムが、わずかに揺れた。
否定ではない。
肯定でもない。
ただ、可能性を示す揺れ。
(よし)
「次は……これだ」
選択確定。
魔法陣が、再び浮かび上がる。
今度は、先ほどよりも冷たい光。
魔力の質が違う。
空気が、わずかに乾く。
光の中心から、
骨が組み上がっていく。
音はない。
だが、完成は早い。
立ち上がったのは、
一体のスケルトン。
武器はない。
防具もない。
それでも――
視線だけは、こちらを正確に捉えている。
ゴブリンとは違う。
警戒も、戸惑いもない。
最初から「待機」している。
命令待ちですらない。
入力待ち。
(なるほどな)
「そこだ」
短く指示する。
スケルトンは、
即座に指定位置へ移動し、静止した。
無駄がない。
迷いがない。
だが――
(自分からは、何もしない)
ゴブリンは、少しだけ首を傾げている。
スケルトンを見て、何かを測っているようだ。
リムは、その二体を見比べ、
ゆっくりと揺れた。
(違う、でも……噛み合う)
《同列ではない》
そんな感覚が、伝わってくる。
「その通りだ」
俺は呟く。
「役割が違う」
まだ、名は与えない。
ゴブリンも。
スケルトンも。
役割は、
行動の中で浮かび上がるものだ。
与えるものじゃない。
見つけるものだ。
俺は、召喚回数の表示を見る。
召喚回数:残り三。
半分を切った。
(焦るな)
強さを集める時間じゃない。
違いを集める時間だ。
リムが、俺の足元に戻る。
ぷる、と一度揺れた。
《次も、見る?》
「ああ」
俺は頷いた。
「最後まで、ちゃんと見る」
ダンジョンは、まだ小さい。
だが、
中身は少しずつ、違う色を持ち始めていた。
最弱のダンジョンマスターは、
こうして二体目を迎えた。
それは、戦力の追加ではない。
判断の軸を増やすための一歩だった。
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