第7話 プライドの完全崩壊(ざまぁ)

 夜が明けたビーチには、昨夜の惨劇が嘘のような静かな波音が響いていた。 しかし、生存者たちの間にあった「序列」は、昨夜の閃光と共に跡形もなく消え去っていた。


「……あ、あの、時任くん」


 かつて五味の側で守を嘲笑っていた男子生徒たちが、卑屈な笑みを浮かべて守に近づいてくる。その手の甲のステータスは、恐怖でひどく低下していた。


「昨日はその、悪かったよ。ほら、俺たちもパニックになっててさ……。お前、あんなに強いなら早く言ってくれれば良かったのに」

「そうだよ、時任! これからはお前がリーダーだ。俺たちを……俺たちの能力も、また『ギフト』で強化してくれよ!」


 守は、足元に縋り付く彼らを、感情の読み取れない瞳で見下ろした。 かつては自分を「電池」と呼び、搾取することしか考えていなかった者たち。力が逆転した途端にこの醜態だ。


「……いいよ。俺は『寄進者』だからね。また皆に力を分けてあげてもいい」


 守が静かに告げると、彼らの顔がパッと明るくなった。だが、守の言葉には続きがあった。


「でも、俺の体力(リソース)も無限じゃない。……俺を助けてくれた人以外に使うのは、もったいないって気づいたんだ」


 守の冷淡な一言に、彼らの表情が凍りついた。


「な、何言ってんだよ……俺たち、クラスメイトだろ!?」

「クラスメイト……? 飛行機の中で俺の時計を笑いながら踏み潰した時も、そう思ってたのか?」


 守が歩き出すと、生徒たちは逃げるように道を開けた。 その先に、一人で砂浜にうずくまる五味の姿があった。


「あ、……あぁ……」


 五味は、守から譲渡された魔力が消え、ステータスが元の数値に戻っていた。いや、精神的なショックでさらに弱体化し、攻撃力は守がかつて蔑まれていた「5」まで落ち込んでいる。


「五味、お前のステータス……今の俺と同じだ。……あぁ、間違えた。今の『俺の偽装』と同じ数値だ」


 守は五味の前にしゃがみ込み、耳元で小さく囁いた。


「薪拾い、代わってやろうか? ……あぁ、でも手が折れてるんじゃ無理か。せいぜい、その『5』の攻撃力で、自分を守ってみなよ」

「……っ、う、うあああぁぁっ!!」


 五味は絶叫し、頭を抱えて砂浜に突っ伏した。 もはや誰も彼を助けようとはしない。自分より強い者には媚び、弱い者を見捨てる――彼自身が作り上げた「能力至上主義」のルールによって、五味は自分自身が最も軽蔑していた「ゴミ」へと転落したのだ。

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