第2話 墜落と「数値」による序列

鼓膜を突き破るような爆鳴と、内臓を掻き回されるような衝撃。それが守の記憶にある「日常」の最後だった。


「……あ、……がはっ……!」


肺に溜まった泥水を吐き出し、守は意識を浮上させた。 視界に飛び込んできたのは、地獄の風景だった。 青い空との対比が残酷なほどに鮮やかな、黒煙の柱。波打ち際では、かつて空の王者だった旅客機が、巨大な獣に食い荒らされた死骸のように無惨に引き裂かれている。ねじ切れた主翼が砂浜に突き刺さり、漏れ出した燃料が海面をどろりと虹色に汚していた。

耳鳴りの奥で、誰かの絶叫が聞こえる。


「熱い! 痛い、助けてくれ!」

「嘘だろ……先生? 返事をしてよ!」


焦げたプラスチックと焼けた肉の臭いが鼻を突き、守は猛烈な吐き気に襲われた。砂浜には、引きちぎられた教科書や、誰の物かもわからない制服のネクタイ、そして潰れたスーツケースが無数に散らばっている。ほんの数分前まで「修学旅行」という輝かしい未来を運んでいたはずの物体が、今はただのガラクタとして打ち捨てられていた。

ここは、文明の助けも届かない絶望の孤島だ。


「……なんだこれ……? 空中に、変な板が浮いてるぞ!」


誰かの叫び声に、守も自分の手の甲にある「アザ」を意識した。すると、網膜に半透明のウィンドウが投影された。


名前:時任 守

職業:寄進者

レベル:1

HP:80 / 100

MP:50 / 50

攻撃力:5

防御力:5

スキル:【ギフト(譲渡)】


「おい、見ろよ俺のステータス! 攻撃力が50もあるぞ!」


五味が手のひらから激しい炎を噴き上げながら叫んだ。彼の職業は【火焔術師】。初期値としては異常な数値だ。混乱していた生徒たちは、その「目に見える力」に吸い寄せられるように五味の周りに集まった。


「時任、お前の数値を見せろ」


五味が守のウィンドウを覗き込み、大爆笑した。


「ハハハ! 攻撃力5? ゴミじゃねぇか! お前はこの島でも俺たちの『家畜』確定だな。いいか、この島じゃ力が全てだ。俺に従わない奴には食料も火もやらねぇぞ!」


ステータスという絶対的な序列。 墜落の惨劇に突如として現れたその「数値」は、救済などではない。 この地獄にさらなる残酷な「弱肉強食」を強いる、新たな支配の幕開けだった。

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