3. 同意書(抜粋)

 彼女と入れ替わって数日が過ぎた。年末の仕事納めまで彼女の会社で勤務していても誰も気付かなかったのは、ケーキのサンタの顔より面白かった。でも――

「あ、ありがとう」

 帰省した家のリビングで、出された緑茶を一口すする。

「ふふ、元気そうじゃない。しかも何だか前よりきれいね」

 このひとはきっと気付いている。さすが母親、親子とはそういうものなのか。

「あのね、この同意書、私のところにも送られてきたのよ。だから早く彼氏作りなさいって言ったのに。ねえ?」

 コピーを取り出して見せられる。そうか、親にも同意書が送られていたのだ。対象者が成人の場合、そんな措置は必要ないはずなのに。婦人科を訪ねた時、彼女はよほどぼんやりしていたのだろう。

「大丈夫よ、お母さん。私は子供産めるから」

 にこりと微笑むと、母親は「ええ」と満足そうにうなずいた。



次世代対応医療に関する説明及び同意書(抜粋)


・本医療は、対象者の生活に影響することなく、社会的役割を継続することを目的とします。

・本医療の実施により、対象者と同一の外見、記憶、基礎特性を有する代替個体が生成される場合があります。

・代替個体は、対象者本人として社会生活を継続する権利を有します。


生成後の対象者本人については、以下のいずれかの措置が取られます。

・栄養資源としての再利用

・医療的処置による段階的終了

・その他、医師が制度上必要と判断した方法


これらの措置の一部には苦痛を伴う場合があります。

※ただし可能な範囲で最小限に抑える形で実施されます。


対象者は、本医療の結果として自らが不要となる可能性があることを理解し、これに異議を申し立てません。


2024年10月20日


対象者氏名:日浦 美久

署名:日浦 美久


保護者氏名:日浦 百合子

署名:日浦 百合子

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次世代対応医療に関する説明及び同意書 祐里 @yukie_miumiu

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