1-4 最強(?)の五人、グラウンドに集結!

「朝礼でも言った通り、本日は訓練を行う!!

 以前話した“連携力”のテストを実施する!!」


 その言葉に、新兵たちは声こそ出さなかったが、明らかに動揺していた。

 全員の表情が、それを雄弁に物語っている。


 そんな反応を見て、ラセルは薄く笑うと、続けて口を開いた。


「まるで『聞いていませんよ』とでも言いたそうな顔だな。

 私は一か月前に、“一か月後に連携力を試す”と明言していたはずだ。

 そのために準備をしていない愚かな兵士はいないと、私は信じている」


 新兵たちの空気が一気に重くなる。


「テストは9時から開始する。それまでに五人一組のチームを作っておけ。

 作れなかった者は……そうだな……」


 一瞬考え込み、ラセルは肩をすくめた。


「……何も思いつかんな。救いがなさすぎて。

 とにかく! 9時に五人一組で、再びグラウンドに集合だ! 以上!」


 そう言い残すと、ラセルはグラウンドの隅の小屋へと戻っていった。


 直後、あちこちからざわめきが起こる。


「やべー、どう組めばいいんだ?」

「あと三人足りねえ……」

「よっしゃ! これで決まりだな!」


 様々な声が飛び交う中、当然のように俺の隣にいたアスカも焦っていた。


「やべーよレイル! あと三人足りねえ!!」


「やばいな。でも、どうすればいいかも分からん」


「だよなあ……うーん……」


 二人で頭を抱えていると、前方からカレンが歩いてくるのが見えた。

 その隣には、カレンとは正反対の雰囲気をした女の子がいる。


 ロングの黒髪で、背の小さい少女。

 誰だろう、と考えていると、カレンが俺たちの前で立ち止まった。


「よぉ、お二人さん。チーム決まった?」


「まだだ。レイルと一緒に誰と組むか考えてるとこ!」


「なるほどねえ。じゃあ、あと一人か」


 そう言って少し考えた後、思い出したように隣の女の子を指した。


「あ、そうそう。この子!

 私たちのチームに入ってくれるんだ。ね、ミレア」


 雑な紹介を受けたミレアという少女は、俺とアスカに丁寧にお辞儀をした。


「カレンちゃんと同部屋の、ミレアです。

 チームを組めるほど知り合いがいなくて……入れてもらえると嬉しいです。

 よろしくお願いします」


 そう言って、もう一度深く頭を下げる。


「おう! ミレア、よろしくな!

 俺がアスカで、こっちがレイル!

 俺たちがいれば何でもできるから、テストのことなんて心配すんな!」


 ミレアはその言葉を聞いて、にこやかに笑った。


「俺はレイル! アスカのお世話係だ!」


「はは! 何言ってんの。

 レイルもアスカも、あたしに世話されてる側でしょ!」


 カレンの意味不明な一言のおかげで、ミレアの笑顔が、さらに眩しくなった気がした。

 

  アスカはカレンの話を聞きながら、グラウンドの土をつま先で蹴っていた。

 どこか拗ねているように、俺には見えた。


「あと一人、誰かいい人いないの?」


「俺、普段アスカとしか話してないからな……うーん」


 カレンと二人で頭を悩ませていると、メガネをかけた男が一人、こちらに近づいてきた。

 太陽の逆光のせいで表情はよく見えなかったが、薄く笑っているような気がする。


 男は俺たちの前で立ち止まった。

 その瞬間、それまで吹いていた風がぴたりと止み、まるで新たな出会いを祝福しているかのようだった。


「やあ、みなさん。僕とチームを組みませんか?」


「あんた、誰なの?」


「僕は――レガルド一の龍脈技術研究者になる男。アルトだ」


 アルトと名乗る男の自己紹介を聞いた瞬間、さっきまで拗ねていたアスカが、嘘のように元気を取り戻した。


「おお!! よろしくな、アルト!!

 俺の名前はアスカっていうんだ!」


 その場でぴょんと跳ねながら挨拶するアスカを見て、アルトは明らかに引いていた。

 そんな様子がおかしくて、俺は笑いながら続けて自己紹介をする。


「よろしくな、アルト。俺はレイルだ!」


 アルトは俺たち二人の名前を聞くと、一度深く息を吸い、改めて口を開いた。


「君たち二人は、兵舎では有名人ですからね。

 座学では話を聞かず、食堂では騒ぎ、集合時間前に体力を消耗している馬鹿がいる――と、周囲の兵士たちの間で噂になっています」


「あはは。二人とも人気者だなあ」


 カレンはそう言って俺とアスカを指さして笑い、アルトのほうを向いた。


「アルト、だよね?

 こんなバカ二人と同じチームで大丈夫? 見た感じ、かなり賢そうだけど」


「お名前の分からない女性の意見も、もっともです。

 なぜ僕が、これほど連携力が低そうなチームに入りたがるのか――当然の疑問でしょう。

 それはですね――」


 理由を大声で語ろうとしたアルトの言葉を、アスカが勢いよく遮った。


「アルト! お前、いっつも俺たちのこと見てたよな!

 端っこのほうで、ずっと一人でさ!

 仲良くなりたかったんだろ!? ごめんな、声かけられなくて!」


 アルトが動揺しているのなど見ずに、軽く頭を下げたあと、アスカはさらに続ける。


「なあアルト、普段食堂では誰と飯食ってるんだ?」


「え……い、いつも一人ですが」


「じゃあ、これから一緒に食おうぜ!

 いいよな、レイル!」


「人数は多いほうが楽しいしな。全然いいぞ」


 俺とアスカは同時にアルトの肩へ腕を回し、三人で肩を組んだ。

 アルトは少し戸惑っているようにも見えたが、その表情はどこか嬉しそうだった。

 多分、喜んでいたんだと思う。


 そんな俺たちの様子を見て、カレンは呆れたようにため息をつき、ミレアは静かに微笑んでいた。


 太陽の光がグラウンドを照らし、心地よい風が俺たちの髪を揺らす。

 まるで、このチームの結成を祝福してくれているかのようだった。


  5人で話しながら9時まで待機した。その間、自己紹介や出身地、兵士を志願した理由など、いろいろな話をした。みんなそれぞれの思いを持っており、自然と笑いも出る。少しずつだが、チームとしての距離が縮まった気がした。


 そんなとき、ラセルが隅の小屋から姿を現す。腕を組み、仁王立ちで俺たちの前に立った。気づけば、他の兵士たちも5人1組のチームごとに、俺たちの後ろにずらりと並んでいる。


 ラセルは目でチームの数を数え、数え終えると、いつもの大きな声で話し始めた。

「お前ら!チームは組めたようだな。正直、組めていないやつが多少は出ると思っていたが、よくやった。」


 微かに笑うその表情に、俺たちは成長を少し認められたような気持ちになった。


「今回のテストのルールを説明する!竜核を持ってきてくれ!」


 ラセルが叫ぶと、白衣を着た王国兵士たちが現れ、手袋を嵌めながら2人1組で謎の紫色のボールを20個持ってくる。


「お前たちには、ここからレガルド王国の城前まで竜核を運んでもらう!テスト開始は30分後、このグラウンドで始める!以上だ!」


 ラセルが小屋に消えると、兵士たちから悲鳴が上がった。

「素手で運ばせるのか!?」

「座学で習ったあれだよね……」

「城前ってここから何キロだよ」


 さまざまな声が飛ぶ中、俺の横の赤髪の男はいつもの調子で笑いながら言った。

「とにかく1位になればいいんだろ!で、竜核って何?」


 カレンが呆れ顔で答える。

「あんたは授業で寝てばかりだから知らないだろうけど、あれは体内の龍脈エネルギーを吸い取るものよ」


「なんだよ、それよくわかんねー」

 アスカは地面を蹴りながら答える。それを見て、アルトはメガネをクイッと上げて語り始めた。

「うん、未来の龍脈技術研究者としては納得の課題ですね」


「アルト、何か案があるのか?」

 俺は期待して聞く。


「竜角の龍脈エネルギーを無効化する手袋があります。それがあれば無理なく城前まで運べるでしょう」


「そのやり方で1位になれるのか!?」

 アスカが食い気味に割り込む。


 カレンは俺たちの様子を見て呆れ顔だ。

「あのさ、連携力の試験って言うくらいなんだから、妨害や最適ルートを考えるのが本筋でしょ。手袋の有無だけじゃないの」


 アスカは少し声を落として説明する。

「あのボールをいかに効率よく運ぶか、それを考えるのが試験なの。チームで作戦を立てるべきよ。ねぇ!」


 ミレアはカレンに話を振られ、戸惑いながらも頷いた。

「うん、私もそう思う」


「よし、じゃあ効率的に運ぶ方法を考えよう!」

 なぜか仕切り始めたアスカを見て、カレンはまた呆れ顔。


「でも……ラセル長官、本当に手袋使わせてくれるのか?」

 俺が純粋な疑問を投げかけると、アスカ以外の3人の顔が一瞬固まった。風で髪が揺れているのに、まるで時間が止まったかのような空気が流れる。


 ーー王国歴142年7月25日9:30

 ラセルは再び俺たちの前に仁王立ちし、グラウンドに声を響かせた。

「お前たち、竜核は各チームにあるか?」

 俺たちは全員一斉に返事を返す。

「はい!竜核所持確認しました!」

「お前たち、何故手袋を持っている?」

 ラセルは俺たちのチームや、いくつかの他のチームを鋭い目で見渡した。首を傾げるその姿に、背筋が少し伸びる。


「いいかお前達!今回の訓練で竜核を運ぶために使用していいものは――素手だけだ!」

 俺たちは手袋を握りしめ、自然と顔がこわばる。目の前が一瞬暗くなったように感じた。ラセルの視線がチーム全員に突き刺さる。


 そんな俺たちの様子を見て、ラセルは薄く笑いながら叫ぶ。

「それではただいまよりテストを開始する!!」


 グラウンドに緊張が張り詰め、連携力テストは静かに、しかし確実に始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る