第7話 深淵の真実
巨大な構造物だった。その中央に巨大な瞳のように窓みたいなものが
僕たちを覗き込んでいた。
その中に見えるのは・・・人なのか・・・?
僕は震えて身を寄せてくる彼女を、しっかりと抱きしめた。
金属のようでいて、石のようでもある。
無数の管が絡み合い、まるで世界そのものが呼吸しているかのようだった。
しかし、中心に眠るあの人はいったい。歌は、まだ続いている。
この世界を満たしてきた、あの音。
神の声でも、精霊の囁きでもない。
――世界そのものの、鼓動。
「ああ・・・これは・・・」
彼女がかすれた声でつぶやいた。
「エル、どうしたんだ?」
「感じる・・・とてつもなく広い、とおい、世界の心、はるかな記憶が」
彼女の瞳は、僕を映していなかった。
見えていないはずなのに、確かに“視ている”。
その瞬間、歌が途切れた。
静寂。
そして――
機械の中心で眠っていた“それ”が、ゆっくりと瞼を開いた。
「……ここまで辿り着いたのですね」
低く、穏やかな声だった。
「次なる、歌い手よ」
その言葉は、エルに向けられていた。
「次なる歌い手・・・?私が・・・?」
「世界を歌う事で、その記憶と感情が紡がれ、世界そのものが形作られていく。あなたにはその素質が」
嫌な予感が、背筋を貫く。
エルはたじろぐように、後ずさった。
「そんな」
その身体が、かすかだった光が淡く輝き始める。
「わたしは力尽きようとしている、世界のゆがみがひろがってしまう。次なる歌い手よ・・・ここで世界の歌を紡いでほしい」
エルは答える
「私は、ずっと夢を見ていた。とても愛しい気持ち、懐かしい気持ち、それを抱いて。
それは世界の記憶だった・・・?」
彼女はもう一度、僕を抱きしめた。
「ねえ、愛しているわ。いつまでも一緒にいたい」
彼女の体は小さく震えている。
エルはしばらくそうしていたが、やがて震えをとめて、
僕に語り掛けてきた。
「……世界はね。」
彼女はゆっくりと手を差し伸べてくる。
あの頃のように優しく僕のほほを撫でた。
「きっと、私があなたを愛するのと同じなの」
彼女の淡い輝きが、だんだんと強く。
やめろ、
「世界を紡ぐことは、あなたを愛おしむ事なのだわ。」
彼女の輝きが、奈落の深淵を照らし始める。
やめてくれ。
「愛するあなたのために・・・」
彼女が光に溶けていく、ひとつになっていく。
刹那、叫んだ。
「いやだ!そんなこと認めない!」
彼女の手がピクリと震える
ずっと願った。
「きみと一緒にいたい!」
焦点の合わない、エルの瞳が揺れる
ずっと焦がれた、君の声に、
「絶対離さない、エル!」
彼女の表情が切なげにゆがむ。
ひたすら祈った。君の瞳の輝きを。
ゆっくりと壊れていく日々の中、それだけを求めた。
世界の喧騒にさいなまれる僕を、僕の世界をいやしてくれるのは、
「君しかいないんだ!」
緑の瞳に涙があふれ、零れ落ちた。
世界は、何も言わなかった。
歌も、振動も、すべてが止まった。
その沈黙の中で、僕は言った。
「世界なんかに、キミを渡さない」
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