第2話 王位? それより卵サンドだ
この物語の俺、こと第二王子アルベルトは、銀髪で紫色の瞳を持つ甘いマスクの見た目だけ王子だった。
貴族令嬢たちと不貞を働かないよう、王子として問題を起こさないようにと婚約者につけられたのが公爵令嬢ミレーナ。
しかし、可憐でグラマラスな男爵令嬢マリアンヌに一目惚れし、ミレーナとは婚約破棄するも、実は男爵令嬢マリアンヌはローベル国のスパイで第二王子を焚き付け、王位簒奪を企てさせ、国内を混乱に導き、その隙にローベル国から攻め落とす為のハニートラップ要員だった。
ミレーナは婚約破棄ののち、隣国ジェイ王国から留学生として来てきた王太子に見初められ、ジェイ王国で王太子と婚約して、母国の危機を救う、小説はそういう内容だ。
いやいやいや、優秀な公爵令嬢をポンコツ第二王子の抑え役にするって、もったいなくね?
ガバっと起きたら、そこは医務室。
側に見覚えのある黒髪の男が居た。
「アルベルト殿下、お目覚めですか」
長い黒髪を緑のリボンで留め、心配そうに眉尻を下げるオーブレン。
騙されてはいけない。
綺麗な顔をして、コイツは俺の兄、この国の王太子がアルベルトの監視役に付けた、現宰相の息子、俺の二つ歳上だ。そして、物語では増長したアルベルトをコイツの父親の領地にある屋敷に幽閉する男である。
閉じ込められているアルベルトをマリアンヌが助け出し、国王と王太子を殺害しようと企むも、捕まって処刑されるのだ。
けれど。
前世を思い出した俺には、王位なんて興味はない。
面倒じゃん?
普通の貧乏会社員だった庶民に、国を背負えって?
無理無理。
王位とか、責任重過ぎてうつ病発症する自信がある、メンタル激弱俺です。
ぐうっと俺の腹の虫が騒いだ。
頭が混乱して、ろくに朝飯も食べられなかったから。
「腹減った……」
「なにか持ってきましょう」
「いや、いい。俺が作る」
「作る?」
「うん」
「アルベルト殿下が?」
「そう」
オーブレンが不思議そうに首を傾げる。イケメンがやると絵になるな。
王族が自分の飯を自分で作るなんて、前代未聞。雑用はそれぞれの使用人がするものだ。
だけれど、俺は卵サンドが食べたい。
この世界に生まれてマヨネーズ味のものを食べたことがないから、おそらく存在しない。
前世の貧乏会社員だった俺は、節約の為にスマホでレシピ検索しながら自炊したものだ。
特に、卵料理はいい。
卵はピヨっと一つの命が誕生するエネルギーの塊だ、栄養がないはずがない。
食べ過ぎは体に良くないが適量であれば、卵と野菜さえ食ってればなんとかなる。そんな卵信者だった。
今、卵サンドの口だ。
卵サンドが食べたい。
「わかりました。厨房を借りられないか、聞いてきます。それから、婚約破棄宣言については、食事の後に詳しくお聞かせください」
緑の瞳の奥がキラリと光った。
俺がとち狂って婚約破棄を叫んだ件、どうやら逃してはくれないらしい。
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