第2話 水曜日 ~暴食の報い~
俺は再び花束を携えて図書館の斎藤さんの許を訪れた。今日の斎藤さんの胸元は竹久夢二の描く美人画の如しだった。昨日とは明らかに違う。傍らの花瓶には昨日の薔薇が生けてあった。
「今日もお美しい」
花束を捧げると、斎藤さんは笑顔で受け取った。
「有難うございます。これも飾らせていただきますね。今日のストーリーはご準備いただいてますか?」
「はい」
「それではお願いします」
「【ハルカの求めに応じて、店員が差し出した物は一見普通の補正下着に見えた。色はパールホワイト、バストから膝の上までをカバーするもので、水平方向に締め付けるベルトが何本も付けられている。
「これがそうなの?」
「はい、超空間コルセットでございますわ。ベルトを締めあげる事で内側の空間を折りたたんで圧縮する事が可能です」
「圧縮って、何か問題は無いの?」
「はい、超空間へ折りたたむだけですから。そして、ベルトを緩めたらすぐに元に戻ります」
「へええ、試着していい?」
「もちろんです」
ハルカは白いコルセットを装着した。全然圧迫感が無い。ウエストのベルトを引っ張るとウエストがすっと縮まった。全然苦しくない。
「すごーい」
「当社の自慢の商品ですから」
ハルカは縮まったウエストを見下ろしながら思う。これで明日はあのワンピースを着てお出かけできる。ファスナーはちゃんと上まで閉まる。ナオトも喜ぶだろう。
「これ、いただきます」
「有難うございます。それで、ご注意いただく事項がございます。ベルトを引きすぎると赤いマークが出てきます。それ以上は引っ張らないで下さい」
「そうなの?」
「引っ張りすぎると他の空間も一緒に巻き込んでしまい、質量が増加するので」
「わかったわ」
店員に告げられた価格は高額だった。あの暴食さえしなければと後悔したが、今更仕方のない事だった。
翌日、超空間コルセットを装着したハルカはベルトを締めあげ、ワンピースを買った時の体型に変身した。ワンピースを着て鏡の前に立ち、回ってみる。ウエストのラインが少しだけふっくらしているように見えた。
「もうちょっとだけ」
呟いて、ワンピースの裾をたくし上げウエストのベルトを引っ張る。少し引いたところで赤いマークが出て来た。
「少しだけならいいわよね」
もう少しだけ引いてから、ワンピースの裾を下ろした。鏡の前で回りその姿に満足する。
待ち合わせ場所に着いた時、ナオトは既に来ていた。
「お待たせ」
走り出したハルカは身体が少し重いと感じた。そして、
グキッ
鈍い音を立てて右のハイヒールのヒールが折れた。たまらず転んでしまう。ナオトが駆け寄って来た。
「大丈夫?」
「ええ」
グキッ
立ち上がろうとしたら、今度は左のヒールが折れた。身体が一段と重くなった気がした。ナオトが心配そうに見つめてくる。
「それでは、歩けないよね。靴屋さんまで負んぶしてあげるよ。それとも……」
ナオトは顔を赤らめた。
「お姫様抱っこがいい?」
「ちょちょちょちょちょちょ、ちょっと待って。ごめん、出直してくる」
ハルカはタクシーを呼んで乗り込んだ。向かう先は超空間コルセットを買った店だ。何とかしてよと店員に訴えた。
「コルセットの性能は上げられないんですよ。でも……」
店員は満面の笑みで続ける。
「こちらの反重力ベルトはいかがでしょう。増えた重量を相殺する事ができますよ」
ハルカには購入以外の選択肢は無かった。】」
「なるほど、私が補正下着をつけているとの推理ですね。でも、それは外れです」
斎藤さんに告げられ、二日目も失敗となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます