第4話〈おわり〉
支部に戻った僕は、先輩に出迎えられた。
「よくやった」
暖かいハグだった。なんだかくすぐったい気持ちになる。
「雨はやんでいたな。それにしては帰りが遅かったな」
「色々あって……」
帰り道は大変だった。白い袋に大量のゴミ袋が収まったのはいいものの、ソリ子がそれを乗せるのを嫌がったのだ。当然カイもソリ子の味方になって、
「重いから嫌だって。ソリ子みたいな女の子にそれはだめだよ」
とかなんとか僕に言った。僕は必死の説得で、どうにか支部まで乗せて帰ってくれるよう頼んだ。
結果、今度二人がデートできるように取り計らうことが交換条件となり、支部に戻ってくることができた。繁忙期過ぎるから、仕事の調整は大丈夫だと思うけど……。
「さあ、何か温かいものでも用意するか」
「わーい。……でも先輩。どうして僕の仕事が滞りなく終わったとわかったんですか? もしかして覗きですか」
「失敬な。サンタクロースは何でも知ってるのさ」
先輩はニヤリと笑った。
「と言いたいところだが……お前の顔を見ればわかる。『贈り物』はちゃんと届けたんだろ?」
「はい」
僕は先輩の問いに一切の迷いなく頷いた。
部屋を綺麗にして、プレゼントとして持ってきた卵を使ってオムライスをつくった。
これは贈り物と言えるだろうか?
もちろん。サンタクロースが贈り物だというのだから、贈り物だ。
「ふむ、なにやらいい匂いがするが気のせいだな」
先輩もわかっていて、悪い笑顔を浮かべている。共犯になってくれるのは、心強い。
「先輩、来年も僕、ここの支部がいいです」
今ならいけるかもしれないと思って勢いで聞いてみた。
「だめだ」
先輩は間髪入れずに却下した。
「お前、自分でもわかっているだろ? 一度きりの奇跡だって」
「……はい。言ってみただけです」
そう言われるだろうと予想はついていた。
サンタの掟が一つ。担当は毎年変わること。
一生のうち、一夜だけだから許されるのだ。
死者が生者と会うことが、頻繁にできてはたまらない。
だからこれは、僕がサンタクロースになるための、最後の確認だった。
先輩はワインボトルとグラスを二つ持ってきて、僕といっしょのテーブルについた。
「これでよし。……来年のお前はこの国から海を渡った場所にある支部で、子どもたちに贈り物を届けるんだ」
「はい。がんばります」
先輩は、小さな子どもをみるような目で僕を見た。
「頑張らなくていい」
わるい子に諭すような、いい子を導くような、優しい声色だった。
「お前はもう、立派なサンタだ。大事な人に贈り物を届けた。それは、サンタクロースの素質を満たしている。それさえできれば、誰もがサンタクロースなんだよ」
先輩はにこりと笑って、新しいサンタの誕生を喜んだ。
「さあ、メリークリスマス。おつかれさま」
「メリークリスマス」
先輩とグラスを合わせて飲んだワインは、少しだけしょっぱかった。
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