晴れた気分と腫れた拳
電車はいつの間にか終点に到着していた。影をボコボコにしていて気が付かなかったが、それなりに時間が過ぎていたようだ。
開いたドアから最高の笑顔でホームに躍り出る。ホームに降りると札の束を持った駅員がいた。
「「え?」」
見合わせた私達が同時に声をあげた。
「あ、あの、お怪我ありませんか? この電車特別なんです。変なヤツがいて本来ならこのお札を当てて処理することになってるんですけど……」
「すみません。なんか、襲ってこられたので倒しておきました」
「あ、ありがとうございます……?」
駅員は訳も分からない様子でこちらを窺い、拳や服に飛び散った泥をまじまじと見ている。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です! 失礼しますね」
ニッコリ笑ってそう言うと颯爽と改札に向かう私。今は最高に気分が良い!
改札を出て家に帰るまでも足取りは軽やかでスキップでもしそうなくらいだ。街の灯りが輝いて見える。
帰宅後、汚れた体をシャワーで綺麗にし、自分の姿を鏡で見る。電車の窓に映っていた私とは別人と思うほど晴れやかな表情をしている。
家に帰ってきて時間が経ち昂ぶった気持ちも落ち着いてきた頃、自分の拳が腫れているのにやっと気がついた。
「……実際、めちゃくちゃ痛いじゃん」
でも、この痛みは嫌じゃなかった。この痛みがあるおかげでさっきの出来事が現実だったと認識出来る。立ち向かえる力が自分にもあるのだと確信できる。
家にあった湿布をペタペタ貼ってベッドに横になった。湿布の冷たさで気持ちも落ち着き、拳の腫れも引いてきている気がする。それでも強くなった心はそのままだと思えた。
今夜はいい夢が見られそうだ。明日に備えてお気に入りの毛布に包まって眠りについた。
翌朝、目覚めも良かった。最近の不調が嘘のようだ。準備も早々に軽やかな足取りで会社へと向かう。まだ拳にはペタペタと貼った湿布とぐるぐる巻きした包帯があるが、これなら楽しく仕事も出来そうだ。
自分の端末を起動して仕事を始めようとした。その時、ねちっこい係長の私を呼ぶ声が聞こえてきた。
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