第7話 君だけに
「あの光景を見ていて、君が9歳の子供でなく、もっと大きな女の人に見えたんだ」
私の心臓がドキッと大きく跳ねた。
……正直、あの後、私は元の世界に戻れるんじゃないかと期待した。
助けを求めていた『エリザベス』の、憂いを晴らした。
これで終わりかもと。
でも……
また、あのトイレに通ったが、何も変わらなかった。
(私、本当に転生しちゃったんだなぁ)
忙しい企業の社畜だったけど、結構性に合っていた。
めんどい仕事が終った日の帰りに、24時間開いている居酒屋で飲むジントニックが好きだった。
パートナーはいなかったけど、たまの休日はおにぎりを持って、河川敷で寝転がったりした。
どんな終わり方だったのかは、覚えていない。
でもあの頃の私はもうどこにもいないのだと、ベッドの上で膝を抱えて泣いて、少しづつ諦めがついていった。
――エリザベスは私で、私がエリザベスなんだと。
幾つかの夜を越えて、ようやくこの世界で生きて行こうと思えた。
「僕らと同じ生き物だった筈なのに、急にお姉さんになっちゃって……女の子はそういうものよ、って王妃様が教えてくれたから、僕も急いで大人にならなきゃって思ったんだ」
おばさん入っちゃったからね……『お姉さん』に見えたなら9歳のエリザベスと折り合い付けた成果だわ。
「あの日から、エリザベスがまぶしくて、ずっと僕の側にいてほしくなったんだ」
ヒューバードは元から頭が良かったけど、その数倍努力をしていた。
側妃様の為、ルーファスを支える為だと思っていたのだけど……私は、思わずはっとした。
「もしかして、ヒューバードが王様にならないって言ったのは!」
「勿論、君と結婚するためだよ」
――『エリザベス』は王妃になれない。
「まぁルーファスがいなかったら、あんな不文律の方を変えてやったけどね」
ヒューバードなら本当にやるだろう。
「エリザベス」
ヒューバードが呼ぶ。
国でただ一人の、私の名前を。
「僕が18になったら結婚しようね」
とろけるような表情で、私の王子様は私を見つめる。
そんな顔されて、逆らえるわけがない。
「勿論、エリザベスが公爵だよ。僕は、宰相もやらなきゃならないから王宮に通うけど、休みは二人だけで過ごそうね」
「……宰相もやるの?」
「愛妻家で娘を溺愛している公爵でもできるんだから、僕にもできるでしょ?」
「そうね……」
本物の『エリザベス』に悪い気がして、今まで気づかないふりをしていた。
自覚すると愛しさがあまりに大きくて、胸で抑えきれなくなってあふれた。
「何で泣いているの!? なんかダメな事言った? 僕がきら……」
「バカね」
最後まで言わせず、抱きしめる。
「大好きよ、ヒューバード。ずっと一緒にいてね」
「勿論だよ! 僕のエリザベス」
きつく抱きしめ返されて、私は、
――私はエリザベスで、エリザベスは私。そして『エリザベス』はヒューバードを愛している。
想いが、言葉だけでなく、魂すら重ねてくれた。
一年後、国へ戻った私たちは、準備期間を置いて、二組同時に結婚した。
国を挙げてのお祝いは一週間続き、近隣の国でも話題になった。
同じ日に、二人の王子がそれぞれ、最愛の女性を妃に迎えた『愛』の国として。
折しも王太子妃の故郷である皇国で、ハネムーンが流行りだした事もあり、我が国への旅行者がとても増えた。
『第二王子妃・エリザベス』の治める公爵領は特に人気が高かった。
ただの滝や湖が、『想いが叶う滝』とか、『愛の女神の祝福のある湖』とか言われるようになったので、私は観光用に整えることにした。
宿場から道を整備し、お食事処を作り、その傍で神殿とタイアップした縁結びのお守りとか作ったら、飛ぶように売れた。
王都にある大神殿は大層喜んで、お偉い神官さんがやって来て感謝の祈祷を捧げてくれたのだが、ご加護を授けられたとして、ますます滝や湖の価値が上がってしまった。
観光地があまり偏るのもいけないので、公爵領の水で清められた加護アリお守りとして、大神殿に出荷することを提案すると、また感謝のお言葉が届いた。
実は、神殿と王家は、5、60年くらい前に『偽聖女事件』というものがあって、多少いがみ合う仲だったが、この件をきっかけにお互いに歩み寄りを始めたと、王妃様からも感謝の書状をいただいた。
果物を使った地元に伝わる焼き菓子も有名になり、日持ちもする事からお土産に喜ばれたが、何より喜ばれたお土産は『竹踏み』だった。
公爵領にあった、繁殖力が高いが固くて細工も出来ず持て余していた樹木(竹ではない)を、単純に縦と横に切って、記憶にある『竹踏み』として利用してみたら、とても気持ちが良い。
国王陛下並びに王太子補佐として忙しく働いている夫にも、家族にも、領民にも大好評だったので、試しに観光地の片隅で売り出した所、最初はぽちぽちだったが、家に持ち帰り遠慮のない格好で使用したら最高!になった観光客の口コミでヒット商品になった。
(他人の前で『素足』というのが、かなり難しい世界だからね~)
王家でも密かに愛用しており、貴族の間でも広がっているらしい。
王都からも売ってくれと、商人がやって来たが……頑丈で壊れないから、消耗品のように定期的に売れないだろうし、何より単純な造りなので、すぐ模造品が出るだろうなーと思ったので、自然に採れる分だけで回している。
国中で一番忙しい夫妻となった私達は、それでも最初に約束したように一緒に過ごす時間を最優先した。
周囲の協力や、『竹踏み』効果(笑)もあって、過労やストレスから上手く逃れたおかげで、ルーファスが国王に即位し、ヒューバードが宰相になる頃には、私は一男二女のお母さんになっていた。
最初の娘が生まれたとき、とても喜んでくれたヒューバードは
「あぁ、でもこの子に『エリザベス』とは名付けられないんだね」
と少し残念そうに言うのだった。
何十年後かにどんな女の子が、『エリザベス』を継ぐのかな?と思い私は自然に微笑んでいた。
・・・・・・・・・・・・・★Happy End!
…『偽聖女事件』は、大体皆様のお察しの通りのお話です(´▽`;)
(惚れた女に箔をつけようとした王子が『聖女』とでっち上げ、神殿は真っ二つに分かれて争うハメに…王子は廃嫡で王弟が国を継ぎ、今の王様はその孫です)
…ここまで読んでいただき、本当に有難うございました!
…また別の話でお会い出来ますように♪ よいお年を~
エリザベスはただ一人 ~扉を開けて用事は果たしたけど帰れなかったから転生らしい チョコころね @cologne
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