第2話 変わらない距離

校外学習当日。


フレイア達2年生は、校外の森で魔法の模擬訓練を行い、野外での飯炊きを体験する。


まだ幼いながらも、戦地へとおもき帝国を護る騎士の野外飯や、有事の時には帝国がどのように水源を確保しているのかなどを勉強し、知識を蓄える校外学習。



あっという間に夜になると、2年生は学園へと戻りレポートを書きつつ、全員で食堂で夕飯を済ませ、男女に分かれて合宿用の宿舎で、寝支度を整えた。



8人は広い相部屋でベッドメイキングを整えると、そそくさとベッドへと入る。



「消灯時間です!全員ベッドへ入りなさい。抜け出したり遅くまで話したりするのは許しませんよ!」



クラス担任の声とともに合宿場の明かりが消えた。


「……先生行った」

サンディのささやく声が聞こえた。


「オッケー。みんな準備いい?」

フレイアもささやくように問いかける。


全員のかすかな声が聞こえると、音を立てないように8人がベッドから抜け出した。


―――


「よお。逃げなかったな」


夜の校舎の前には、ガイルと取り巻きがすでに待っていた。


「逃げる理由ないからね」


8人が校舎の前へと歩いてくる。



見慣れている綺麗な貴族学園とはいえ、夜に見る校舎は暗く不気味であった。



沈黙が僅かに13人の間に流れる。



「よ、よし…始めるぞ!!別ルートからいって先に金の彫像を取ったほうが勝ち。人数もこっちのほうがすくねぇけど、そっちは全員でこいよ。―ハンデだ」


一瞬校舎に怯えた顔をしたガイルは、切り替えるように声を張り、フレイア達へと嫌味たっぷりの表情で笑う。


ウィローがわかった。と頷く。


「でも危ないときはすぐやめよう。

ただえさえ抜け出してるんだ。先生達の迷惑にならないようにしないと」



そういうウィローにフンッと男子生徒は鼻を鳴らす。


「そんなこと言って怖いんじゃねぇのかお前ら?

やーっぱり女は軟弱でだめだよなぁ!」


取り巻きの男子生徒が指をさして嘲笑あざわらう。



フレイアが前にでて、8歳とは思えない低い声で男子生徒達を見据えた。



「仲間を侮辱すんな。

ここに来た時点で受けるって決めてきてるんだから、騎士たるもの二言はない。さっさと始めてくれない?」



ビクゥッ!!と肩をあげる男子生徒達は、それでも強がり宣戦布告する。


「へっ何があったって助けてなんてやらねぇからな!!!制限時間は1時間!!!とって戻ってきたほうが勝ちだ!!―開始!!!」




ガイルの掛け声とともに、男女が分かれて走り出した。



校舎の門を抜け、二手に分かれていく。



金の彫像は、貴族学園の最上階、入り組んだ廊下の奥にある第5資料室。



ウィローが走りながら、皆へと声をかけた。



「そうだ。いい機会だし、こないだ王城でやった音を立てずに走る実戦やってみないか?」


「お!いいね!あたし得意だよ!」


サンディがトンッと足幅とつく位置を即座に調整した。



タタタ!!というサンディの走る音がきえ、静かに素早く走っていく。


トトッタッ…


「難しい…」


ミスティアが足元を見ながら呟くが、少しずつ慣れたのか足音を消して走り始めた。




「さっさと最上階へいこう。早く戻らないとね」


フレイアが最上階を目指し、階段を上っていく。



そんな様子を、入口で分かれたはずのガイル達5人がニヤニヤとしながら眺めていた。



「今に見てろ。

悲鳴をあげるあいつらをこの目でみて、明日クラスで笑いものにしてやる…!」


ガイルが、ニヤリと笑い、取り巻きへと指示を出し始めた。


「あんな余裕そうな顔してたって、お化けみたら怖がるに決まってますからね!!」


「一週間かけて作った仕掛けに驚いて泣くのが楽しみですね…!」



取り巻き達もニヤニヤと笑いながら散っていった。



―――



8人が階段を素早く登っていく。

踊り場で切り返し、続く階段へと先頭のフレイアが足をかけた瞬間。


ピンッ


「うわっと!?」

「危ないっ!」


何かが足に引っかかる感触。

僅かに体勢を崩すフレイアを、後ろのウィローが支えた。



バサアッ!!!!



突如、上から何か白いものが勢いよく降ってきた。



トンッ


バスンッ!!!



アクアが軽く飛び上がり、白い物体をかかと落としのごとく叩きつけた。



「白い布?なんこれ」



叩きつけられた布を持ち上げたサンディがバサッと横へ投げ捨てた。


「フレイア、足大丈夫?」


ウィンディアが声をかける。


「うん。なんか引っかかったような」


フレイアはしゃがみ込み、足を触る。



ネーヴェが階段の横へと目を向けると、スッ…と何かをつまんだ。



「糸ね。足をかけたらこれが切れて、上からその布が落ちてくるように仕掛けていたんでしょう」


「階段で転んだら危ないのに…誰が」


スピカがネーヴェのつまんだ糸を見ながら、眉を寄せる。 


「ガイル達だろ。こんなことやるの」


ウィローが呆れたような怒っているような顔で、ため息をついた。


「正々堂々やるとは思ってなかったけど…ホントどうしようもないね」


ウィンディアの表情も険しくなる。


「資料室にいくまで、まだ何か仕掛けてくるかも…」


ミスティアが上の階を見あげながら呟く。


「アイツラほんとムカつくんだけど!!ねえやっぱもう1回殴らない?」

サンディが怒り顔でダンダンと足を鳴らした。


「わたしも賛成っ!!こんな勝負、最初からこうやって驚かすのが目的なんじゃないの?」


アクアも白い布をもち、ブンブンと振っている。



「勝負は勝負だし。受けちゃったし。あとでアイツラに思い切り文句いってやろ。こんな子供だましの罠、王城での訓練に比べたら何ともない」


フレイアが立ち上がり、みんなを見た。


「ちゃっちゃと終わらせて帰ろ。眠いし」



ニッと笑うと、若干不満そうなサンディやアクアもため息をつき、また階段を駆け上がっていった。



―――


静かな足音を立てて、最上階へたどり着いた8人は入り組んだ廊下を走っていた。



8人が途中の教室を通りかかろうとした時。


「いまだ!!」


かすかな声が聞こえた。



ガラッ!!!


ブワッ!!!!


教室のドアが勢いよく開き、黒い布が何枚も8人へと向かってきた。


黒い布は淡く光を帯び、顔の目の位置には空洞のような穴が大きく空いている。



「おおおおお化けっ!!?」


サンディがビクッと飛び上がった。



キヒヒヒヒ…ッ


無気味な笑い声が響く。


ザッ!


ウィンディアが皆の先頭に躍り出て、手を黒いお化けへと向けた。


「吹っ飛べ!」


ゴオッ!!!!



ウィンディアの手のひらから風が巻き起こると、黒い布を吹き飛ばした。


「ふぅ。もう大丈夫だよ!行こ!」


にっこりとウィンディアが笑うと、サンディが抱き着く。


「ウィンディアァ〜!」


「サンディはほんとにお化け嫌いだねぇ」


よしよしと頭を撫でるウィンディア。


「風で吹き飛ぶならお化けじゃないわよ。サンディ」


ネーヴェが冷静に声をかける。


「なんでわかるの?」

アクアが首を傾げた。


「本物のお化けなら、風も通り抜けるんじゃない?」


ネーヴェがお化けが出てきた教室へと、目だけを向けながら大きめの声で告げる。



微かにビクッとした気配が、教室の中から感じられた。


「またあいつらか…」

本格的に呆れたウィローが首を振る。


「第5資料室、そこだし…。早くとっちゃお」


ミスティアがトトト…と走り始めた。


それに続いて全員もまた走る。



8人が通り過ぎた教室から、顔だけをそーーっと出したガイル達が悔しそうにうめいた。



「あいつら全員ぜんっぜん効いてないですよガイル様…!」


「いやサンディは結構ビビってたぞ」


「せっかく浮遊魔法とライトで本物っぽく見せたのに…」


「このままだと普通に彫像取られますよ!ガイル様」



取り巻き達がガイルを見る。


一際悔しそうにワナワナと震えていたガイルは、バッ!!


と立ち上がった。



「余裕みたいな顔して…ふざけやがって。おい、上に行くぞ。屋上とあの資料室の間にバルコニーがあったはずだ!絶っ対泣かせてやる…!!」


そういうとガイルは、資料室と反対の屋上バルコニーへと続く階段へと走り出した。



ガラッ


第5資料室のドアを開け、足を踏み入れた8人は、金の彫像をキョロキョロと探した。



「あ!あったよ!」 


スピカが指をさした。


資料室の一際高い棚の上。

8人の手のひらから少しはみ出すほどの大きさの、金の彫像が置いてあった。


「……あんな場所にわざと置いたのか…」


普段ガラス戸の中にあったはずの彫像を、ガイル達が必死に高い棚へ置いただろう様子を想像したウィローが、理解できない顔で呟いた。


「はやくとっちゃお」


ミスティアがスピカの腕を引いて、小走りで棚へと走っていく。


ふわっ


ミスティアが浮遊魔法で金の彫像を浮かせると、慎重にスピカの手に誘導していった。


「もうちょっと…」



スピカが手を上に掲げ、金の彫像がスピカの手に触れた瞬間。


ゆら…っ



金の彫像が置いてある棚のすぐ横、片側だけが空いていた窓に影が揺らめいた。






「ばあああああっ!!!!」






ガイル達が大声とともに窓から逆さまの顔を一斉に出す。


フレイア達を驚かすため、屋上バルコニーの柵に足をかけて、逆さまの顔を出してきたのだった。



「うわあああっ!?!?」


「おばけえええっ!!!?」




月の逆光で顔が暗く、首だけが上から出ている光景に、さすがの8人も心臓が跳ね、口から叫び声が上がった。




「……プッ!!ハハハハ!やってやったぞ!!!見ろよ!情けねー顔!!!」


ガイルがしてやったりと大声で笑う。


「やりましたねガイル様っ!!見てくださいよサンディもアクアも涙目ですよっ!!!」



その声に正体を即座に理解した8人が、怒り顔で窓辺を睨んだ。



「あんたら…!!さすがにやりすぎじゃないの!?勝負はどうしたのよ!!!」


フレイアが拳を握って近づいていった。


「バカか!!元から認める気なんてねぇよ!!その情けねー顔!明日クラスの皆に広めてやるからな!…!?」


ガイルが笑いながら、フレイア達を指さしたその時。


ズルッ


と屋上バルコニーの柵にかけていたガイルの足が、抜けた。



「えっ!?うわっ!!!?」


ガシッ!!!


ガイルが咄嗟に、隣の取り巻きのローブを掴む。


「ちょっとガイル様!?うわわわっ!!」


「つかむなよ!?足が!!」


ガシッ!!


ガシッ!!


芋づる式に隣のローブを掴んでいくガイル達。



そのまま5人が連なって、柵から全員の足が完全に、抜けた。


スローモーションのように、空中へとバラけた5人が、ゆっくりと落ちていく。



「ちょっ!?」


フレイアが握っていた拳を開き、咄嗟に窓へ手を伸ばしたが、すでに時遅し。



「うわああああ!!!!?」




最上階から落ちていく5人。


迫りくる地面は硬い石畳。


逆さまになっていたため、頭から落下し始めていた。


「なにやってんの!?あいつらは!!!ウィンディア!ネーヴェ!!」


落ちていく5人を見て、フレイアは叫んだ。


フレイアからの呼び声に、ウィンディアが急いで手を5人に向けてかざす。



ゴオッ!!!!



風が5人を包み、体を浮かせた。


「考えなしのバカ」


ネーヴェがウィンディアの横で素早く地面へと手をかざすと、5人の真下に氷魔法を放った。


ピキピキピキ……!


氷が地面から螺旋らせんを描いて固まる。

滑り台のようなカタチになっていった。


ドン!!



「うわわわわ!!」

「冷たいいいいっ!!」


風で巻き上がった5人が、氷の滑り台へとお尻から落ちると、螺旋らせんを描きながら滑っていく。



ドテッ!!!!



ガイル達は滑り台から地面へと、音を立てて着地した。



「いててて……」


「ガイル様ひどいですよ!なんで道連れにするんですか!!?」


「うるせぇな!仕方ねぇだろ!!掴むものがなかったんだよ!!」


「た…助かった…うう…」


「死ぬかとおもった……」



地面へと尻もちをついたガイル達が口々に喚く。


最上階からその様子を、なんとも言えない表情で眺めていた8人がため息をつき



ピシャッ!!!


と窓を閉め、下へと降りていった。



8人が校舎前へと戻ってきても、ガイル達はまだお互いに罵りあっていた。



ザッ


とガイル達の前に8人が立つ。



「―で?誰が助けてやらないって?」


フレイアが腰に手を当て、ガイル達を見下ろした。



「な…なんだよ!!」


ガイルが青い顔をしながら叫ぶ。


「最初から驚かすのが目的だったわけね?あんたら。卑怯なことしやがって」


淡々と見下ろすフレイアに、ガイルが立ち上がる。


「うるせぇ!!!気に食わねぇんだよ!女で次期騎士団長とか!!!だから泣く顔をみて笑ってやろうとしただけだ!!悪いかよ!!!」



サンディがピキッと血管が切れる音が立つほどに目をすがめ、フレイアの横に立った。



「男だの女だの…!!いい加減その考え方やめたら!?」


アクアもサンディの横へと立つ。


「騎士団に性別なんて関係ない!!お互い貴族ならわかるでしょ!!!このガキ!!」



2人に強く責められたガイルが、僅かに言葉に詰まった。



ウィローがしゃがみ込み、取り巻き達へと語りかける。



「みんな未来のためにココで励んでるんだ。私の母上が言っていた言葉だけど、他人を下に見る行為はやめたほうがいい。…自分を下げることになるよ」



その言葉に、だんだんと顔を下げていく取り巻きの男子生徒達。


スピカが駆け寄って、1人の取り巻きの膝をみる。


「擦りむいてるね。ちょっとまってね」


ふわっ…


スピカが手をかざすと、暖かい光が包み、取り巻きの膝を治していった。


「もう大丈夫?ほかに痛いところない?みんなも」



ニコッと笑いかけるスピカに、治された男子生徒の顔がどんどん赤面していった。



「……い、いたく…ない」


真っ赤にした顔をうつむかせる男子生徒。


赤面する男子生徒をみたミスティアは


「へっ…単純…」

とそっぽを向いて笑った。



ずいっ!!


ネーヴェが彫像をガイルの前につき出し、ニッコリと笑った。


「どんなことがあったにせよ。彫像は取ってきたのだから勝負は勝ちよ?今更撤回なんてしないわよね?」


氷のような笑みに、ガイル達が固まる。


「あ……あの」


ずっと無言だった取り巻きの1人が、おずおずと声を発した。


「あ…ありがとう。助かった…。死ぬかと思った」


「お前っ!!!」


お礼を述べた取り巻きに、ガイルが声を荒げた。


「だっ…だって、助けてもらったお礼はちゃんと言わないと…!俺も母上に、感謝の言葉はしっかり伝えなさいって言われてるし…」


ガイルの勢いに肩をすくめながらも、取り巻きはしっかりとした声で言い放った。


ガイルがぐっ……と言葉に詰まる。



「オレも…ありがとう」

「…ありがと」


膝を治してもらった取り巻きが、ぼそっと呟くようにお礼の言葉を告げる。

もう一人も、口を尖らしながらも呟いた。


それを聞いたスピカが、どういたしまして!と笑いかけると、また素早く顔を伏せる。


そんな自分の取り巻きの様子に、悔しげに拳を震わせていたガイルが、フレイアをにらんだ。



「〜〜〜〜〜!分かったよ!!!認める!!!二度と女のくせになんて言わない!!これでいいだろ!!」


そして更に悔しそうに、肩を落とした。



「とりあえず、大事にならなくてよかったよ」


ウィンディアがホッと安堵の息をついた。



その時。



トタッ


横から足音がした。



全員が顔を向けると、



見たことない少女が立っていた。



白いワンピースを揺らめかせ、僅かに口元に浮かぶ笑み。


月明かりの中ぼや…と闇に浮き上がるように立っていた。



「わあああああ!?!?」


「ぎゃああ゙ああ!?」


「びゃああああぅ!?」




その場にいた全員が悲鳴をあげた。





「あん?なんだ君らは」



夜の闇に浮かぶ少女から、似つかわしくない低く太い声が発せられた。



「へっ?」


あまりにも急な男性の声に、全員が訳がわからず呆ける。



その少女の後ろからひょこっと、この学園に長年勤めている用務員の男性が顔を出す。



「こんな時間になにしとる?」


「よ…用務員さん……?」




ネーヴェが意を決した表情で、用務員の前に浮かぶ少女へと近づく。

そして僅かに脱力して全員を振り向いた。



「………絵画よ。これ」



それは、用務員の体が隠れるほどの、大きい少女の絵画だった。

保護用の白い布が、運んでいるときに顔部分だけがれたのだろう。 


ちょうど少女の顔から下に白い布がかかり、ヒラヒラと風に揺れている。


黒縁に淡い色調で描かれた少女の微笑む絵は、月明かりの中で反射し、ぼんやりと光っているように見えていた。



全員がはあああ〜〜〜と息をつく。



「なんだよもおおお!驚かせんなよおおー!」



「びっくりした…ほんとに幽霊かと思った…」


「こ、腰抜けたあ…」

「わたしもぉ〜〜〜」


サンディとアクアがヘナヘナと地面に座り込んだ。



「な、なんだお前めっちゃ怖がってんじゃんか」


取り巻きの1人が僅かに強がりながら、サンディをからかうように笑った。



「うるさい。お前だって、びゃああ〜〜っ!とか言ってたじゃんか」 



サンディにジトッと指摘された男子生徒は、恥ずかしそうにバッと立ち上がった。


「ビビるだろあんなもん!!白いワンピースの女とか!!」


「白ワンピース?なんだ?これを幽霊だとでも思ったんか。2年かかった絵画の修繕がやあっと終わったから、邪魔にならない夜に運んでたんだ」



ニカッと笑う用務員が絵画をポンポンと、軽くたたいてみせる。



「こんな大きさだ。

生徒にぶつかると危ないからな!」



「2年?じゃあその時目撃された幽霊って…」



ウィンディアが腑に落ちたように、みんなを見た。


フレイアが肩をすくめる。



「同じように用務員さんが運んでた絵画を、たまたまみた生徒が勘違いしたってことだね」



なんだぁ〜〜〜


と呆気ない怪談の真相に全員が安堵した。




「そんなことより早く帰れよ。校外学習で泊まってるの2年生だろ?見回りの先生に見つかると大目玉だぞ」



用務員の言葉に、ハッ!!と全員が我に返り、ワタワタと焦り始めた。


しかし



「貴方達!!なにをやってるのですか!!!」



ビクッ!!!と全員の肩が上がる。



「合宿所を抜け出してなぜこんな所に!?全員早く戻りなさい!!」



クラス担任の女性教諭の声が、夜の校舎に木霊した。




―――


翌朝。


クラス担任と学園長からコンコンと説教をうけた13人は、罰として校外学習で使った資材の整備清掃をやらされていた。


「ったく…なんで俺がこんな…」


「ホントだよ!早く帰りてぇなあ〜!」


ブツクサと文句を言いながら清掃する男子生徒達。


ドン!!


そんな男子生徒の横に、大きめの資材をおくネーヴェ。


「な…なんだよ!ネーヴェ!!」


「これの拭きあげもお願いね?口を動かすより手を動かしたほうが効率的よ?」


にっこりと有無を言わせない圧に、男子生徒が黙り込む。


ネーヴェが去っていくと、コソコソと男子生徒達が呟いた。


「あいつ大人しいとおもってたけど、めっちゃ怖えよな…」


「おう…うちの母上ばりに笑顔が怖えぇ」


「なあに?」


クルリと振り向くネーヴェ。


「なんでもねぇ!!」


と肩をビクつかせる男子生徒。


「ネーヴェ。あんまりいじめてやるな」


清掃しつつ苦笑しながら、ウィローがネーヴェへと呟く。


「あら、いじめてないわよ。早く終わるほうがいいでしょ?」


「怒ると怖いからなぁ。うちの参謀は」


「何ウィロー?なんかいった?」


「いたたたっ!耳引っ張るなって!」


小競り合いをするウィローとネーヴェの後ろで、ババババッ!と素早いスピードで整備しまくっているミスティア。


「……すごいねミスティア。どしたの」


ウィンディアが目を丸くしている。


「早く終わらせないとまた母様に怒られるっ!!ウィンディアほらこれ仕上げ!!」


いつにも増して俊敏しゅんびんなミスティアに、思わず笑ってしまうウィンディアは、はいはい。と受け取った。

 


「それにしても、幽霊が絵画だったってことは、行方不明になった生徒ってなんだったんだろ?」



ウィンディアがキュッキュッと水晶を吹きながら呟く。


「それ母様に聞いてみた。母様も2年前の夜中に大声で悲鳴あげた生徒だから、覚えてた」


ミスティアが整備の手を留めずに答えた。


「どうだった?」


ふぅ…とミスティアは息をつく。



「なんてことない。外交官の家系だったその生徒が、家の事情で帝国から他国へ引っ越しただけ」


「あー…噂っていい加減だねぇ」


ウィンディアは、勝手に尾ひれがついて行方不明扱いになってしまった生徒に微かに同情した。



スピカが終わらせた資材を持ち上げ、よいしょ…っと立ち上がると、


ひょい


とその荷物を誰かが奪った。


「ん?」


スピカが不思議そうに目線をあげると、スピカが傷を治した男子生徒だった。


「も…もってやる。転ばれてまた汚れたら面倒だからな!」


きょとん。と目を丸くしたスピカ。


「ありがとう!」


と笑うと、男子生徒の顔が真っ赤になり無言のまま荷物をもって、ぎこちなく歩いていった。


「おんやぁ…?」

「これは〜〜?」


その様子をニヤニヤと見つめるサンディとアクア。


「なーに?サンディ、アクア。ニヤニヤして?」


スピカが不思議そうに首を傾げると、両脇からサンディとアクアが肩を叩いた。


「罪なことしたねぇスピカ」

「まったく…百年早いよねぇ?」


「???」

状況を飲み込めないスピカが不思議そうにキョロキョロしていた。


「おい。フレイア」


そんな中、ガイルが資材を吹きながら、同じく整備しているフレイアへと声をかけた。


「なに?」


手元から目線を上げずフレイアが応える。


「その…だから、あれだその」


なんといおうか迷ってるガイルを、いぶかしげにフレイアが見る。



「ガイル様、ファイトですよ!言ってやりましょう!」


隣にいた男子生徒がこっそりと応援する。


応援されたガイルは、グッと布巾を強くにぎり、体をフレイアへと向ける。




「今度っ!また剣で勝負しろ!

正々堂々だ!!今度は負けねぇからな!!

お前も手を抜くんじゃねぇぞ!!―男も女も関係ねぇんだからな!!」


ビシッと指をさしながら宣戦布告するガイルに、一瞬びっくりしたような顔をするフレイア。


……ニッ。 


とフレイアは、口角をあげる。


「なんだ最初から、そう言えば良かったのに。

―受けて立つよ!怖気づいて逃げないでよ?」


にっこりと笑いかけられたガイルは、

少し恥ずかしそうにしながらも、あたりまえだろ!!


と僅かに口角をあげた。


学園の空には眩しい太陽が輝き、僅かに距離を縮めたフレイア達13人を明るく照らしていた。



―――


「懐かしいねえ」  


王城の中にある端正に整えられた物置部屋。


そこでフレイアは、腰に手をあて微笑んでいた。


総騎士団長を継いでから半年。


物を取りにこの部屋へと入ってきたフレイアの目に



"黒縁の額に彩られた少女の絵画"が飛び込んできた。



その部屋にいた騎士に聞けば、傷んでしまった絵画を先日、貴族学園からこの王城へと持ってきたらしい。


歴史のある絵画のため、捨てずに保管していたそうだった。


「その絵画がどうかしたのですか?」


騎士が不思議そうに首を傾げる。


フレイアは穏やかに微笑み、首を振った。


「いや、あたしらが学園にいたときに、ちょうどコレがあったからさ。懐かしくて」


騎士は納得し、昔からある古い絵画ですもんね〜!

と頷いた。


フレイアは目当ての物を取り、物置部屋をあとにする。



「あの時は、めちゃくちゃ学園長に怒られたっけな」


よみがえる幼い思い出に苦笑いする。


廊下の角を曲がろうとすると、目の前に誰かが立っていた。


「おっと!」

「うわ!ごめん!」


フレイアはぶつかる寸前で立ち止まる。


そして、目を丸くし、ぶつかりそうだった相手を見て呟いた。


「あらま。なんつータイミング」


「は?…お前久しぶりの同級生に対して失礼じゃねえ?」


それは商業ギルド長の父親の補佐しているガイルだった。



背はフレイアよりも高くなり、声も低く、年齢相応に落ち着いた雰囲気を持っていた。


「失礼失礼。商業ギルド副長殿。いやぁ〜立派になって」


フレイアがニカッと笑いながら、ガイルの背中をバンッと叩く。


「痛えな!なんだお前喧嘩売ってんのか!?総騎士団長に言われると嫌味にしか聞こえねぇんだけど!!」


ガイルが眉間にシワを寄せ喚いた。


「おーそーゆーところは変わってないねぇ。どうガイル、久しぶりに模擬戦でもやる?」


フレイアは訓練場を親指で差しながら、笑った。


ガイルはため息をつき、首を振る。


「勘弁しろよ。結局お前に勝てたこと一度だってねえのに。今やったら死ぬわ。それに俺は、お前と違って"力"じゃなくて"頭で"戦う方が向いてんだよっ!」


トントンと自分の頭を指差して、からかうように笑うガイルに、フレイアは口角をあげて、再び思いっきり背中を叩いた。


「いやー!ほんと立派になったわ!またねガイル!そのうちまた対戦しよ!」


手をヒラヒラと振りながら廊下を歩いていくフレイアに、ガイルは眉を寄せ、首を傾げた。



「だから、お前とまた戦ったら死ぬっての。変なやつ。背中思い切り叩きやがって」


そしてフッと笑うと、きびすを返しフレイアと反対方向へと歩いていった―。

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Regalia外伝―過去の思い出― もちうさぎ @mochiusagi73

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