『クララと緑契門の戦士』第2部

花木次郎

第1話 緑契門の揺らぎ

夜の冷気を吸いこんだ風が、王宮の回廊を静かに流れていく。

戴冠からまだ1ケ月。クララは玉座の上で地図に目を落としながら、心の奥に沈む違和感を消せずにいた。

 ――達也は、どうしているのだろう。

 ”緑の国“を救い、門を越えて行った達也。

 彼が最後に見せた微笑みが、今も胸の奥を静かに熱くする。

 そこへ、執政官レオルが駆けこんできた。

「陛下。緑契門に“変化”がありました」

 クララは立ち上がる。

 門の異変は、国だけでなく“二つの世界”そのものに影響を及ぼす。

 門の前に立つと、石碑に刻まれた文字が淡く光を帯びていた。

 古い印文――初代王家が使った言語だ。

 クララは手をかざし、ゆっくりと読み解く。

 ――『往復七度を越えるな。命脈は裂ける』

 ――『二界の均衡を保つ者のみ、帰還は許される』

 息が止まった。

「達也は……すでに四度、門を越えている……」

 つまり、これ以上の往復は“命の消耗”を意味する。

 胸の奥が鋭く締めつけられた。

 王宮地下の古文書庫。

 クララは積み上がる羊皮紙を一枚ずつめくり、緑契門の成立史を追い始めた。

 ――緑契門は、最初から完全な門ではなかった。

――初代王家の“生命力”によって安定していた。

――王家の血を継ぐ者が儀式を行わなければ、門は徐々に揺らぎ始める。

 その文言を目にした瞬間、クララの胸に光が灯る。

「私が……安定させられる。王として、そして……」

 達也を帰すために。

 最後の巻物を手に取ると、不吉な記述が目に入った。

 ――『闇の主』。境界が弱まる時、封が緩む。

 文字は黒く滲み、まるで警告のように脈打って見える。

 門の揺らぎ――それはただの事故ではなく、封印の緩み。

闇の主が動き出せば、”緑の国“も地上界も無傷では済まない。

クララは巻物を閉じ、深く息を吸った。

「門を安定させる……それがすべての始まり」

 王の瞳に新しい覚悟が灯る。

 静かに、第2部の幕が上がった。

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『クララと緑契門の戦士』第2部 花木次郎 @minami-nishi

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