『クララと緑契門の戦士』第2部
花木次郎
第1話 緑契門の揺らぎ
夜の冷気を吸いこんだ風が、王宮の回廊を静かに流れていく。
戴冠からまだ1ケ月。クララは玉座の上で地図に目を落としながら、心の奥に沈む違和感を消せずにいた。
――達也は、どうしているのだろう。
”緑の国“を救い、門を越えて行った達也。
彼が最後に見せた微笑みが、今も胸の奥を静かに熱くする。
そこへ、執政官レオルが駆けこんできた。
「陛下。緑契門に“変化”がありました」
クララは立ち上がる。
門の異変は、国だけでなく“二つの世界”そのものに影響を及ぼす。
◆
門の前に立つと、石碑に刻まれた文字が淡く光を帯びていた。
古い印文――初代王家が使った言語だ。
クララは手をかざし、ゆっくりと読み解く。
――『往復七度を越えるな。命脈は裂ける』
――『二界の均衡を保つ者のみ、帰還は許される』
息が止まった。
「達也は……すでに四度、門を越えている……」
つまり、これ以上の往復は“命の消耗”を意味する。
胸の奥が鋭く締めつけられた。
◆
王宮地下の古文書庫。
クララは積み上がる羊皮紙を一枚ずつめくり、緑契門の成立史を追い始めた。
――緑契門は、最初から完全な門ではなかった。
――初代王家の“生命力”によって安定していた。
――王家の血を継ぐ者が儀式を行わなければ、門は徐々に揺らぎ始める。
その文言を目にした瞬間、クララの胸に光が灯る。
「私が……安定させられる。王として、そして……」
達也を帰すために。
◆
最後の巻物を手に取ると、不吉な記述が目に入った。
――『闇の主』。境界が弱まる時、封が緩む。
文字は黒く滲み、まるで警告のように脈打って見える。
門の揺らぎ――それはただの事故ではなく、封印の緩み。
闇の主が動き出せば、”緑の国“も地上界も無傷では済まない。
クララは巻物を閉じ、深く息を吸った。
「門を安定させる……それがすべての始まり」
王の瞳に新しい覚悟が灯る。
静かに、第2部の幕が上がった。
『クララと緑契門の戦士』第2部 花木次郎 @minami-nishi
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