第7話 天使と謎の少女③
3.
翌朝、ディはうまく監視の目をごまかして、エレナとテーセとともにTDFに向かった。
そこでスパコンを使わせてもらう予定らしい。
うちの会社で既存の端末を使うよりも早く情報収集が出来るのなら絶対にそっちの方がいいはずだ。
オレは有給をもらうことにする。
街をぶらつきリジアン(仮名)を探してみることにしたのである。
かなりアナログな試みで銀河系進出以前の探偵、刑事ドラマのような感じになるが、協力するといった以上オレにできることといったら、これくらいしか思いつかなった。
彼女達の端末を操作する速さと思考は常人の遥か上を行っているので、オレが手伝っても邪魔になるだけで役には立たないだろうからねぇ……。
もちろん事件現場にも行ってみようとしたが、プラントやハックル山の周囲には銀河保安局が規制線を引いていて、今も大勢の調査官が現場をくまなく調査している。ネットワーク関係者と同様、かなり遠方から遠巻きに現場を眺めるしかなかった。
地殻エネルギープラントは建設途中の建物が遠くから見ても修復不可能なくらい爆破されているのが分かる。ハックル山も同様で山頂は十メートル程低くなり山肌は焼けただれ黒く染まっていて、携帯端末カメラの望遠機能を使い確認するとオレ達がピクニックした場所の林も消え、無残としか言いようがなかった。
フライトレコーダーや事務所の端末を探して詳しく調査しているのだろうが、成果はあるのだろうか?
オレは街へと引き返すと子供が行きそうな場所を選んで動くことにした。
もっとも平日なので学生がアミューズメントパークやショッピングモールにいるかどうかは疑問だったが……。
まずは昨夜から行っていた情報収集の結果を話しておこう。
ティーマの学生名簿には、リジアン・デニスンの名は無かった。
惑星在住の住人の中にデニスン姓の人はいたが、その中に女性は含まれていない。
なぜ故人の名義のカードを使えたのか分からないが、偽名確定。
旅行者やビジネスで半年以内にティーマに入国した人物で該当するものもいなかった。
言動はともかく見た目は十歳くらいの子供だったので、余程の事情がない限りティーマ在住の子供が学校に通わないということは無いだろう。短期滞在でもスキップなどしていない限り教育の義務が発生し通信教育なり何らかの方法で教育を受けることになるはずだったが、その手続きをおこなった形跡もなかったらしい。
理容室で髪の毛の色を白く変えたものはいなかった。
ティーマ在住で髪の色が白またはそれに近い人物はいたが、モンタージュとは骨格が似ても似つかないので完全に除外される。
バイオチェンジ関連の医師は登録、非登録を含め調査してみたようだが、それに該当するような人物はいない。
瞳の色も同様だったので、髪の色も含め元々がオリジナルである可能性が高い。実際にオレやディの様にバイオチェンジを使用しないノーマルな人間も多いのだから。
ディは他の惑星に範囲を広げる必要があると言っていた。
またバナスシティ内に設置されているカメラ全てにアクセスして、顔認証をおこなうとも話をしていたので、そのためには演算処理能力の高いスパコンが必要になる。
大事になりすぎてやしないか? 大変過ぎてあの三人にはかける言葉がみつからなかった。
バイオチェンジのための技術があっても骨格まで変えるのは難しいし法的に規制されている。体形など、痩せたり太ったりというのは本人の望む姿になれるけれど、それは大人びて見える様に恰幅をよくしたりするとかであって、逆に子供になるのは難しすぎたのである。
身分証にはDNAレベルで本人だと確認できるように設定されている。何らかの情報アクセスや入出金があれば特定されしまう可能性は高い。これは犯罪が行われないようするためでもあり、だからこそこの情報社会では身分を偽ることは困難とされているのだが、リジアン(仮名)は今も銀河保安局の網にも引っかからず逃げおおせている。
「幽霊かよ」
あの丘であの子と会ったのは夢でも何でもないはずだった。
「何者なんだ?」
穏やかでよく晴れた日だった。
オレは歩き疲れ、大通りのベンチに腰を下ろし、近くで買った缶コーヒーを飲みひと息することにした。
足元を見つめていると、影がオレの前で止まった。
「わたしを探しているの?」
「お、お前、生きてたのか!」
顔を上げると目の前には真っ白な髪、真っ赤な目のあの女の子がいた。
「勝手に殺さないでよ。それに声がでかい」
「だってあの状況だぞ。オレとディ以外あそこから離れた者はいないっていうし」
「気にしてくれたんなら、ありがとね」
「オレがじゃないよ。ディがだよ」
「ああ、あの子ね」
携帯端末を取り出そうとすると、女の子はそれを止める。
「あなた監視付きなんでしょう? 話がしたいなら移動しない?」
「どこにだよ。隠れる場所なんてないぞ」
「森林公園が良いかな。あそこだったら何とかなると思う。それにあそこにはクレープ屋も出ているから、奢ってよ」
可愛くおねだりされて思わず脱力してしまう。
女の子の姿をよく見ると、薄汚れたブラウスは昨日のままだった。
「あれから何も食べていないのよ。お腹が空いたわ」
「そんなの知らねぇよ。自分で買え」
「カードを使うと足が付きそうなのよね」
「自分の立場、理解しているんだな。というかそれで良くオレの前に出てきたな」
「あなた達の方が話を通しやすいかなと思ったのよ」
オレの思考を読んだのか軽くウィンクしてくる。
「オレはなんにも力は無いぞ」
「あなたはね。ディだっけ? 相方さんはいろいろとコネを持っていそうだから」
「だったらオレじゃなくて、ディに直接連絡付ければいいじゃないか?」
「彼女のいるところはセキュリティが高くてさ」女の子は意味あり気に言う。「あなたの方が近づきやすかったのよ」
オレの頭の上ではてなマークが渦巻いていた。
「まあ深く考えない様にしよう。オレはダイチ。お前の名前は?」
「わたしはリップ」
名乗るのは初めてかもしれないとリップは微笑んだ。
さらに奇妙な出来事は続いていくのだった。
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