第6話 天使と夏(前編)

 ティーマに夏がやって来た。

 いやー夏だなー・・・これが、夏と言えるのならばだが。

 まァ、ティーマは一年の三分の二が冬という極寒の地だから仕方ない話なのかもしれない。その中で四季という観点からすれば、これは夏なのかもしれないのだろうなあ。

 とはいえ、夏とは言われてもオレの生まれ育ったイルザークに比べたらこの気温この気候、どう見ても初春のそれでしかないのである。

 しかし、それは長~くクソ寒い冬を体験した後だから言えることなんだよなぁ。

 昨日記録した今夏最高気温だって18℃でしかないんだよ、これがさ。

 オレの故郷だってそんなに温暖な方じゃなかった。それでも夏ともなれば30℃を越える真夏日があり、寝苦しい熱帯夜が続くことだってあったんだよね。

 それが、ティーマでは赤道付近に位置するバナスシティでさえどんなに暑くなろうとも最高気温は20℃を超えることはない。

 更に海水にいたってはそれよりももっと低いときている。

 こんな状態で海に入ろうなんてのは気違いざたのように思えた。

 なのにティーマの人間は、誰もそんな事気にする様子もなく平気で海に入っていくんだ・・・。ましてや、夏になる前に屋外のプールに飛び込んで気持ち良く泳いでいるヤツを見たときオレは鳥肌が立ったぞ。初めてティーマの夏を体験した時、ここに住んでる連中は人間じゃねぇとさえ思ったものだった。

 しかし、三年もこの星にいると、それも慣れっこになっていた。

 住めば都、とはよく言ったもんで人はどんな環境にだって住めるゴキブリ並みの生命力を持っているんだよね。本当にさ。

 まぁ、そんな訳でどんなに気温が低かろうが短ろうが夏は夏、あとは気持ちの問題だった。

 日差しは眩しく、それなりには暑く、なによりうっとうしくもなくカラッとしているのがいい。そして空はどこまでも青く、水平線には入道雲さえ見える。

 そんな天候に恵まれた日だった。オレはディをエアバイクに乗せフリーウェイを海を目指し走り抜ける。

 

 ガモウビーチ。

 それはティーマでもっとも赤道に位置し、最大かつ美しいとされる砂浜だった。

 バナスシティからフリーウェイを走ること一時間、ようやくそこに着く。

 なにせエアバイクを走らせるのは久しぶりだったのだ。

 それでもディが「素敵ですね」と喜んでくれたので、先輩を拝み倒してサイドシート付きのエアバイクを借りてきた甲斐があったというものである。

 さい先よく天気もいいときたもんだ。

 オレはカモウビーチに来たのは初めてだが、ビーチは話に聞いていた通り本当に綺麗だった。

 ティーマには衛星と呼べる星がない為ここはまったくの静かな海辺である。

 波があるのが当たり前だとおもっていたから少々面食らうが青く透き通った海が目の前に広がり、ビーチでは色とりどりの水着を着た男女が思い思いに歩き回り寝そべっていた。

 うーん、夏だなあ。

 オレはというと、そんな中でボーッと海を眺めている。

 エアバイクからシートとかを引っ張り出すと、着替えに行ったディを待つしかする事がなかった。

 男だとズボンの下に海パン履いてくればいいけれど、女の子はそういう訳にはいかなかったんだよなぁ。

 ディはどんな水着を着てくるんだろう?

 ワンピースかビキニかハイレグか、それともTバックなんてのは・・・ある訳ないか・・・ぁらフルな水着もいい、ワンポイントの入った物も可愛いと思う。それともグッとシックな物かフリル付きなんて物もあるしトロピカルな物もいい、それに目の前を歩いていくお姉さんの様に豹柄の水着なんてのもあるよなぁ。まッそれでも、どんな水着でもディは似合うと思うんだ。

 そんな事考えてると、ついつい顔が緩んでいくのが分かる。

 それに近くではやたらナイスバディな女が横になり日光浴をしていた。見えそうで見えない胸の谷間がチラチラしている。

 缶コーヒーを飲む手が止まり、ついつい視線がそっちにいってしまう。何度もいかんいかんと思いつつも目を向けてしまうのが情けないな・・・やっぱ。

「早く来ないかなぁ」

 ディが来たら・・・

 ・・・何をしよう?

 しまったーーーーー!何も考えてないぞー!!

 うーん・・・その辺のネットワークでデートの仕方とか研究しとけばよかったかな。

 オレっていつもこの行き当たりばったりだったからなあ・・・

 まずはここに来る事しか頭になかった。これは情けないぞー!

「ダイチさん」

 ドキーン!

 あれこれ考えてた時だった、唐突にオレは背中をつつかれる。

「やあ、来た・・・のオッ!?」

 ディかと思い慌てて振り向いたオレはその途中で固まってしまう。

 そこにいたのはディではなくニカッと微笑むテーセだった・・・

 なぜ!?

「まったあ?」

 ディの声をーーーさすが姉妹と言うしかないーーー使って笑うテーセ。

「なーんてね、やっぱりここに来てたのね」

「な、な、なん・・・」

「なんでここに居るかって?それはね」

 楽しそーにテーセはチッチッチと人差し指を振る。

「今日はいい天気だしー、あたしがああ言ったから、ダイチの事だからディ姉を絶対海に誘うと思ったのよ♪」

 はぁ・・・

「それにしたって、どうしてここだって・・・」

「ティーマでメジャーなビーチって言ったらここだもんね。ダイチの事だから穴場なんて知らないだろうから、きっとここしかないと思ってたんだ」

 読まれてる・・・

 オレは自分が単純だとは思っていたけれど・・・情けない・・・

「で、来てみたらダイチがいた訳よ」

「・・・そうなんだ、ハハハハ・・・」

「ねえ、ディ姉は?」

「着替えにいってるよ」

 テーセの言葉に一抹の不安・・・

「そうかあ、どーするエレナ?」

 そう言ってテーセは後ろに立っている女性に声を掛ける。

 その時オレは初めてオレをジーッと見つめていたもう一つの視線に気がついた。

 腕組みし見下ろす彼女、すげーェ、怖い視線だ。

「あっ、彼女はね」

 テーセは立ち上がると彼女の手を取り引き寄せる。

「エレナ・ホナミ・ヤジマ・TDFで一緒に仕事してるお友達なの」

「どーも、ダイチ・ローマンです」

 彼女は差し出された手をしばし見つめ、それからおもむろにオレの手を握る。

ミシッ!

「イッ!」

 骨が砕けるかと思った。何なんだコイツは?

「どーしたの、ダイチ?」

「・・・なんてもない」

 テーセは手をさするオレを見て笑う。

「エレナってば手加減しないからね」

 そーいう問題化?

「情けないね」

 エレナのボソッと言う声がする。

 カーッ!オレが何したっていうのよ。

「じゃあ、あたしディ姉を捜してくるね」

「えっ?」

 言うが早いかもうテーセは駆け出していた。

 おいおいこの状況でテーセがいなくなったらどーなるんだよ。

 そして案の定重苦しい沈黙が訪れる。

 エレナはというと時折オレを上から下まで値踏みするように眺め回す。

 またいつものパターンかなあ。オレがディと付き合ってると知ると、初めての人はいつもこんな感じだった。

 慣れてるとは言え、今日はパーカーを羽織っただけーーー最近ディの食事のお陰でか腹の出っ張りは取れてきたが、それでも貧弱な体型な事に変わりない。やっぱ、これって嫌なもんだと思うぞ。

 気になって彼女の方を見れば、一瞬視線が絡み合ったかと思うとまたエレナはオレを無視して海を見はじめる。

 なんだろうなー。

 エレナは切れ長の目に精悍な顔立ちで、ほとんど手入れしていないんだろうセミロングの髪は跳ね馬の様であり彼女の野性味を引き立たせている。すげー美人というわけではないが、それでもどことなく人を引きつける何かがあった。

 身長はオレよりも頭半分は高い、グリーンのワンピースの水着からすらりと伸びた足はしっかりと大地を踏みしめ、胸(これが結構でかいんだ)の前で組んだ腕は力強そうだった。

 なんか妙にカッコいいんだよ、これが。

 でも、苦手なタイプだ。

「あ、あの・・・」

 沈黙に耐えかねてオレは口を開きかけた。

 開きかけて何を話していいのか分からず・・・

「・・・いい天気ですねぇ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ああ、何でこんな所で天気の話をせにゃならんのだー!

 ほらみろ無視されてしまったじゃないか・・・

 気まずい雰囲気の中、人のざわめきと歓声だけが周囲を包み込んでいく。

 く、空気が重い。

「おい」

 しばらくして彼女が口を開く。

 ぞくぞくするようなハスキーな声だった。

「・・・はい?」

 それに対してなんと間の抜けた声だろうか。

「デュエルナに、どういうつもりであんな事言ったんだ」

「あんな?」

 話が見えない。

 オレが躊躇していると、サッとエレナの腕が伸びて引き寄せられる。

 すぐ目の前には彼女の顔がある。そんなおっかない顔で睨まないでほしい・・・

 それでなくても怖いんだからさ。

 これじゃあ、タカに睨まれた子ウサギかヘビに睨まれたカエルか・・・そんなもんになった気分だよ。

「ジョーダン半分だとか、好奇心でいい加減に付き合ってるんじゃないんだろうな」

 そ、そんな事はあるわけがない。

 でも、そん時のオレは情けない事に首を振る事しか出来なかった・・・

「もしもあの子を泣かす事があったら、アタシがこの手であんたを海の底に沈めて氷付けにしてやるからね」

 目の奥で不気味に光る物が見えた、と思ったのは気のせいだったのだろうか。

 とにかく、こいつは本気だって感じてしまった。

 こえーよー。

 オレは首をカクカク縦に動かすしか出来ない。

 エレナが手を離すと、オレはその場にヘタリこんでしまう。

「まぁ、ディが選んだんだからあの子の見立てに間違いはないと分かってるんだ。でもね、分かってるけどテーセや他ほど簡単にアタシは納得したくないんだ。今のままでいい訳がない、あんたってロクな噂が聞こえてこないわ、情けなさすぎるんだもんな」

 エレナは鼻を鳴らす。

 そして、こうも付け加えた、小さい声だったが。

「どんなもんだか知らないが、まあ頑張るんだな」

 この時初めて彼女が笑みをもらす。挑戦的だけど楽しんでる、そんな感じがした。

 ムッするよりも先にオレはその笑顔になぜかホッとしてしまうのだった。

 まあ、ディを心配しての事(相手がオレだから)なんだろうな。

 でも、怒ったり笑ったり、女ってわかんねーなあ。

「ダイチー!」

「ダイチさーん」

 真夏の日差しが、優しい風と共にやって来る。

 振り返ればディが手を振りテーセと駆けてくる。

 クリーム色のビキニ、意外な程大胆な水着姿。それでも彼女の清楚さ優雅さはこれっぽっちも失われてはいない。

 可憐・・・

「・・・ダイチさん?」

 もうディしか目に入らなかったのだろう、彼女の問い掛けにもテーセに肘撃ちされてやっと気が付いたくらいだった。

 ディは頬を赤らめ伏せ目がちに訊ねる。

「変、でしょうか?」

「えっ・・・あぁ・・・、その・・・」

 どれくらい見つめていたんだろう・・・きっと穴の開くほど見入ってたんだろうな。

「見とれてて、他に目に入らなかったんだよね」

 その通りだった。

「あたし達なんておジャマ虫みだいね。こんな美女が二人も傍にいるのに、ひと言もいってくれなかったのにねェ、エレナァ」

「ホンとだ」

「えっ、そ、それは・・・」

「わーってるわよー。もうあたし達いくからさ」

 いたずら天使は笑ってオレを引っ張る。

「ダイチ、後は行動あるのみ。でなきゃ気持ちは伝わんないよ」

 オイオイ。

「がんばってね」そっと耳打ちするテーセ「キスくらいしなさいよ」

「あっあのなあ」

 そして、エレナは肩を一瞬だったが砕けるかと思うほど握り、意味あり気に笑ってテーセの後についていく。

 なんだかなー、オレは頭を掻きディを見る。

「ハハハ・・・遠慮することないのにね」

「そうですね」

「とにかく、座らない?」

 もう頭の中は真っ白だった。

「はい」

 それでも、まあ滑り出しは順調かな?


 青々とした空、綺麗な海。

 ティーマの海は巨大な衛星がないから潮の満ち引きがない、ただっ広いプールのようなもんかもしれない。

 照りつける太陽光に反射して色彩を変える海。

 人のざわめき歓声が聞こえ、海鳥が飛んでいく。

 ・・・あー広くて大きいなー・・・

 滑り出し順調なんてウソっぱち、もう数分を経たずして会話はこと切れ沈黙の中に埋没してしまったのである。

 さっきからタバコふかして海なんかボーッと眺めているしまつ。

 トホホホ・・・

 これはこれでいいんだけどねェ。いつもと変わんないよ・・・

 それになんか気になって、さっきから気分が落ち着かないんだよな、浜辺を行き交う人達の視線が気になるのなんのって。

 そりゃあ目立つ存在になるだろうとは思っていたけど、これ程とは・・・不毛な砂浜に咲いた可憐な一輪の花といったところか、流石はディとしか言いようがない。

 今度はもっと人出の少ないとこ探しとこうかな、うん。

「ダイチさん?」

「は、はい?」

「楽しくありませんか?」

 ちょっと淋しげな顔をしてオレを見つめる。

 頼むからそんな顔しないでー、苦手なんだよー。

「そんな事ないよ、な、なんで?」

「不機嫌そうな、イライラしているような顔をしていらっしゃいます」

 それはー、きっとまわりの視線のせい・・・だろうな。

 オレっていつも言われる事だけど、考えている事がすぐ表情に出てしまうんだよね。

「あッ、いや、その、これはね・・・」

 なんて言ったらいいんだろう。

 どう言ったもんか四苦八苦していると、オレの目の前で駆けて行こうとしていた男の子が思いっきりコケる。

 そしてなぜかとっさに体が動き少年を助け起こしてる。

「大丈夫?」

 砂地だから痛くはなかったのだろうが、顔まで砂まみれだった。ディは男の子の砂を払い落としてあげる。

「すいませーん。サトシ大丈夫か?」

 少年の父親だろう声がする。ふと、どこかで聞いたことがある声だと思って振り返ってみると・・・

「おやぁ、ダイチ、それにディじゃないか」

 やっぱりキム所長だった。

 なんて世間て狭いんだろ・・・

 この後オレとディはキム所長の御家族を紹介されるのだな。

 所長の奥さんとさっき転んだ男の子が長男で六才になるサトシくん、そして三つになったばかりの妹サキちゃんだ。

 そして、いつの間にか、と言うか成り行き上、キム所長一家と和んでしまう。

 ディはサトシくん、サキちゃんとすぐ仲良くなり、さっきから水際で三人で砂遊びをして多分お城かなんかだろう、そういったものを作ってる。

 こっちを見て手を振るディ達に答えるオレ。

 ・・・オレは何をしに来たんだろうか・・・

「・・・でだ、週末にロッジを借りて家族サービスをしている訳だ」

「はあ・・・」

 所長の話も上の空。そんな事はどーでもいいんだ、オレは、オレは・・・

 ・・・ディとデートをしようと、二人で海水浴を楽しもうとここに来たんじゃなかったけ?

 まあ、すでにこんな人出の多いメジャーな所にやって来たという自分のミスをデラックスな棚の上に置いてしまっているのではあるが(人間ってなんて便利なんだろう)

「やれやれ、そういう事か」

「はあ?」

 突然、納得したかと思うとキム所長は立ち上がる。

「お前はすぐ感情が表に出るヤツだな。まあ、それがお前のいい所でもあるがな。そういう事ならお邪魔虫は消えよう」

 まただよ・・・

 所長の言葉にオレは顔から火の出る思いだった。

「まあ、頑張れよ」と肩を叩き「それから、そんな顔をディに見せるなよ、ディが心配するぞ」と所長は言った。

 手を振り家族を集めるとキム所長一家はいずこかへと人込みに紛れて行く。

「どうしたのです、ダイチさん?顔が赤いですよ」

「ああ、これは」

「もしかして日射病ですか。大変」

 ヘロヘロ~、オレは思いっきりずっこけてしまった。

 ・・・この後ディに説明するのがまた大変だった・・・


「ダイチさん、泳ぎませんか?」

 ディの勘違いが一息ついてーーーまったく、病気じゃないって分かってもらえるまでどれくらい時間が掛かったことかーーー彼女は立ち上がりオレに手を差し出す。

 夏の日差しの中でブロンドの髪がまるで金細工の様に流れきらめく。

 ディはまさに輝いている。

 交渉すぎる美、一瞬オレは自分がとんでもないくらい次元の高いものを相手にしているように思えた。

「そうだね・・・」

 ゴックンと喉を鳴らし、ぎこちない返事をする。

 触れ合う手の温もりはディの存在を示す。まぎれもなく彼女はここにいる、素直で明るい笑顔をオレに、オレにだ、向けるディが。

 何で?なんて聞かないで欲しい。オレだっていまだに不思議なんだ。

 誰かこの宇宙の存在とオレとディが出会った事の因果率を説明できる人がいたら紹介して欲しいものだと思う!

「さあ、行きましょう」

 そう言ったかと思うとディはオレの背後にサッと回り込み、オレを押し走り出した。

 ドワーーーーーーーーーーー!!

 軽くなんてもんじゃない、一気に海へと坂を下る如く加速度的に走り抜けていく。

 オォーーーーーーーーー!オッ!

 ついにはディの足どりについて行けず、オレは足をもつれさせ思いっきり海にダイブする。ディを巻き込んで・・・

「冷てーーーーーッ!!」

 海は冷水のごとく冷たい。オレはすぐさま立ち上がって震え上がる。

 そんなオレを一瞬ディは不思議そうに見つめ、それから楽しげに笑った。

 笑い事じゃないんだけどなー・・・

 オワッ!

 更に追い打ちをかけるようにディはオレに海水を浴びせかけてきたのだった。

「つ、冷たいってディ」

「顔に付いたドロを落とそうと思って」

 愛すべし天使は軽やかに笑う。それがどことなくテーセに似ている様な気がしたのは気のせいだろうか・・・

「男前ですよダイチさん、水もしたたるいい男って」

「・・・あのネェ、オワッ!」

 そんなわけないと言おうとしたら、再び冷水が飛んできた。

 クソー、もうヤケだ。負けてなるかとオレもディにお返しを始めるのだった。

 歓声とはげしい水しぶきの応酬が続く。

 後で考えてみればこれもよくある青春物かラブコメのーーーオレとディはどー見ても後者だろうーーー恋人たちのたわいのない戯れみたいなものだったように思えるが、この時はけっこうマジで水のかけあいをやっていた気がする。

 ドワ!!

 そのうち息も付けぬほどの量がオレに降り注ぐ。少し飲んじまった。

 なんだなんだ。

「なーに、バカやってんだよ」

 よーやく見えるようになると、そこにはマーク先輩とウラヌさんが、ニコやかーに笑って立っていた。

 幸うすい・・・

「楽しそうだね、ダイチくん」

「ハハハハッ・・・・」

「はい、楽しいです。皆さんもどうですか」

 ディは海水をすくい空へと降り注ぐ。

 そのあどけない仕種にオレも先輩達もしばし呆然とする。

 やっぱ、ディもちょっと変・・・

「・・・で、何で先輩達がここにいるんですか」

「それはこっちが聞きたいなあ、ダイチ」

「いやー、これは・・・」

 先輩には海に行くなんて言ってなかったからなあ。

「人からサイドカーを借りていったかと思ったら、ディとデートとはなあ」

「あー、ハハハ、まあ」

 先輩はオレにヘッドロックをしてグイッと引き寄せる。

「お前も進歩したなあ」

 ハハハハ・・・


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