1-11 みんなに挨拶をするんだよ

ミミの挨拶の大半を聞き逃してしまったルカだが、自己紹介はまだ続く。

ミミが着席した後、先ほどの快活な少女が勢いよく立ち上がる。


「私は稲田早紀いなだ さき!得意武器は斧と棍棒!ミミと同じ前衛よ!趣味は・・・。」


ミミと同じように、様々な情報をべらべらと話すサキ。

少々暴走しがちな節もあるようだが、引っ込み思案なルカにとってはありがたい存在かもしれない。

何より、非常にかわいい。

全体的にミミより幼い印象ではあるものの、むしろ元気な口調やしぐさとマッチしており、非常に好印象だ。

配信で見つけていれば、ルカは迷わずチャンネル登録をしていただろう。


そんなサキの怒涛の自己紹介が終わると、次は唯一の男子生徒が立ち上がる。


「佐々木遼太郎。リョウって呼んでくれ。弓使いで、後衛だ。転入生が男子で嬉しいよ。これまで、肩身が狭かったんだ。よろしく頼む。」


髪を明るい茶髪に染めているリョウは、一見どこか軟派でヤンチャな印象を受ける。

しかし、その口調には棘がなく、ルカを心から迎え入れている雰囲気を感じた。


最後に、長い髪で眼鏡をかけた、ザ・委員長といった雰囲気の女子が立ち上がる。


峰結依香みね ゆいか。魔導士よ。回復も戦闘も行けるわ。よろしく。」


他の女子に比べると、端的な自己紹介。

不真面目なルカは、ユイカには若干の苦手意識を感じた。

一連の流れが終わり、後藤が口を開く。


「さぁて、自己紹介も終わったところで済まんが、もう一人紹介すべき奴がいる。」


後藤の言葉を合図に、教室のドアが再び音を上げて開く。

現れたのは、黒い長髪を後ろで束ね、ロングコートを羽織った男性。

ニヤニヤとした笑みを浮かべるその顔を見て、ルカ以外の生徒は驚愕を顔に浮かべた。


「坪井だ。今日からこのクラスの副担任をすることになった。よろしくな?」


坪井、という名前を聞いて、ルカもその存在に思い至る。

この国最強の探索者、坪井利親つぼい まさちか

行ける伝説とまで言われる男が、この小さな教室に立っていた。


「流石に驚いたか。ちょいと特別な事情があってな。坪井には授業を受け持つかどうかは分からんが、戦闘訓練だったり、ダンジョン実習あたりを見てもらうことになるだろう。」


後藤はニカっと笑いながら告げる。

ルカが横に立つ坪井の顔を見ると、ルカに向けて片目をつぶった。

その様子でルカは合点した。

以前、加護がルカにサポートをつける、と言っていたが、恐らくそれが坪井のことなのだろう。

多忙なはずの日本最強をあっさり呼びつけるあたり、加護はいったい何者なのだろう?と思っていると、後藤が話を続けた。


「さて、いよいよ気になってると思うが・・・。この時期に転入生が来たのも、いきなり坪井なんて大物が副担任になるのも、理由がある。おい、ルカ。」


後藤はルカに顎を軽く振り、合図を送ったのち、教卓を開けた。

ルカは手筈通り、ケージを教卓の上に置く。

生徒たちの視線は、ルカと、教卓の上のケージに集中した。


「えと・・・。驚かないでくださいね。今から、ぼくの相棒を紹介します。」


前置きをして、ルカはケージの扉を開ける。

ケージの中からゆっくりと、サフィアが歩いて登場した。

4人は坪井が現れた時以上に息を飲み、目を丸くした。

そんな一同を、サフィアはその蒼い眼でぐるりと見渡し、きょとんとした顔でルカを見る。

ルカはサフィアに微笑みかけると、軽く撫でながら4人に向き直る。


「えっと・・・。相棒のサフィアです。種類とかはわからないんですけど、新種の魔物みたいです。あと、性別も分かりません。噛んだりしないいい子です。撫でてあげると喜びます。よろしくお願いします。」


サフィアの代わりに、ルカが頭を下げる。

ルカは自分でも気付いていないが、自身を紹介するときよりもサフィアを紹介するときの方がよく喋っているあたり、親バカの素養があるようだった。


「ほら、サフィア。これから一緒に勉強する仲間たちだ。サフィア、みんなに挨拶をするんだよ。」


ルカが優しく促すと、サフィアはぴぃ!と声を上げ、翼を広げた。

よくできたね、えらいぞ、とサフィアを撫でるルカ。

サフィアは褒められて嬉しそうに目を細めている。

そんな様子を見てフリーズしている生徒一同に対し、後藤が咳払いの後話始める。


「見ての通りだ。理屈は不明だが、この魔物・・・。サフィアはルカに懐いてる。前代未聞の事例だが、上は様子を見ることに決めたらしい。ただし、普通の高校生には任せてはおけないってことで、ルカは特例でここに編入することになった。一応形式上はルカの武器ってことで、登録されることになる。」


後藤の説明に、ようやく4人は合点が言ったように頷いた。


「察してるだろうが、坪井がここに来た目的はサフィアの監視だ。それと、万が一何か不測の事態が起きた場合、制圧するためにな。」


後藤の言葉に、坪井はひらひらと手を振って応える。

なんとなく察してはいたが、明言されたことで、生徒たちには改めての動揺が走る。

目の前で呑気に撫でられている真紅の雀が、日本最強を引っ張り出すほどの魔物なのか、と。


そんな動揺も関係なく、二人きりでじゃれあうルカとサフィア。

その様子を見て、坪井は密かに、期待の笑みを浮かべるのだった。

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