第5話 青々とした匂い

 また、外の景色が変わった。


 白いものは、光に溶けるみたいに消えて、代わりに、青々とした、新しい匂いが、窓からたくさん入ってきた。


 地面からは、小さな、色とりどりのものがたくさん生えている。


 花だ。


 いろんな匂いがする。


 甘い匂い、ちょっと酸っぱい匂い、新しい草の匂い。


 この匂いは、世界が新しくなる、希望の匂いだ。

 この季節は、キミちゃんが学校から帰ってくると、すぐにボクと一緒に庭に出た。


 キミちゃんは、ボクの首に、小さな野の花で編んだ首輪をかけてくれた。


「コロ、お花似合うね!」って、くすぐったい声で笑うんだ。


 ボクは、その花輪が崩れないように、そっと歩いた。


 キミちゃんが帰ってきたら、この新しい匂いを、一緒にたくさん嗅ぐんだ。


 キミちゃんは、ボクが地面に鼻を押しつけているのを、いつも優しく、じっと待っててくれた。


 ボクの体は、なんだか、前よりも動かしにくくなってきた。


 散歩に出ても、すぐに疲れてしまう。


 パパとママは、ボクの散歩の時間を短くした。


 彼らは、ボクを抱きしめる回数が、とても増えた。


 その手は優しいけど、いつまでも消えない心配の匂いがする。


<つづく>

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