お酒は人を変えすぎる

「それじゃあ、一年お疲れ様ー!!乾杯っ!!」

「「「乾杯!!」」」


サークル長の言葉にみんなが答えるように、乾杯を宣言する。

そのままみんな——先輩も含めて——は一気にお酒を胃の中へと放り込むが、お酒が苦手な私はちびちびと液体を喉に流し込んでいく。

——相変わらずビールは何が美味しいのかわからない。


隣で、すごい勢いで飲んでる先輩を見て、思わず声をかけてしまう。


「せ、せんぱい……?」

「んんぅ……なにぃ?」

「もう酔ってるじゃないですか。そんなに飲んで……大丈夫なんですか?」

「えぇ……大丈夫だよぉ……」


ただでさえ滑舌が悪い先輩の呂律が全く回ってないので、なんていっているのかほとんどわからない。

ちらっと机の方を見てみると、もう2、3杯は飲んでいる様子だった。

まだ、乾杯してから20秒ほどしか経っていないというのに、ハイスピードすぎる。


その時、先輩の手が新しい酒へと向かっているのを見た。

私はその手首を思わず掴んでしまった。


「ん?なにしてるのぉ?」


先輩は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに色気のある笑顔へと変わる。いつもはどちらかというと無表情な先輩が見せるその笑顔は、すごく魅力的だった。


「さ、さすがにおつまみとか食べませんか……?」

「ああ、ぁぁ、うん……確かに」


先輩は手を動かしてテーブルの真ん中に置いてある枝豆へと手を伸ばす。


「いつまで、手握ってるの……?」

「あ、ご、ごめんなさい」


手を離すと、「あ……」と、なにかを惜しむような声を出す先輩。しかし、すぐに枝豆へと意識を移し、先輩はそのまま皮ごと食べる方法で、枝豆を食べる。


枝豆を咥えている先輩の口が、妙に色っぽくて、思わず目線がそちらへと寄っていってしまう。それは、どんなグラビアの水着の画像より色気のあるものだった。


「っ……」


唾を飲み込む。そんな私を見てか、先輩は驚きの行動をしてきた。


「……ぱくっ」


——私の人差し指を先輩の口が咥えたのだ。ねっとりとした液体を感じる。

そんな時、私の指に少しの痛みが走る。


「いっ……」


噛まれたのだ。それもかなりの甘噛み。痛いようで、気持ちの良い。そんな感覚に私の脳は揺さぶられていた。先輩と私の手しかここには存在しないような気がした。


でも、そんなわけはないわけで。


「はははっ!!夏織と梨々香は相変わらずお似合いだな!!」


——他の先輩の言葉に私は、はっと意識を取り戻す。先輩も、その言葉を聞いて、私の人差し指から顔を離す。そして苦笑いをして言う。


「いやいやぁ!そんなかんきぇじゃないですよー!」

「なわけー!!私から見てもLOVELOVEだったわよ」


”ラブラブ”——そんな言葉に反応してしまう。

しかし、そんな私なんて関係なしというように、先輩と秋山先輩のマシンガントークは続いていった。


「秋山先輩もまたまた!!彼氏できたって聞きましたよ!!」

「え!知ってるの!?あははーなんだか恥ずかしいね……!」

「羨ましいですぅー!だってクリマスも彼氏とかじゃなくて梨々香といたんですよー!」

「ええー!!クリスマスまで梨々香ちゃんと居たの!?もう、付き合ってるも当然じゃん!!ねえ梨々香ちゃん!」

「え!?……ま、まあ……先輩の彼女になれたら嬉しいですけど……」


急に話を振られて、びっくりしてしまう。お酒が入ってる人はこう言うところが苦手だ。

それはそれとして、本当に私は先輩の彼女になれると思われているのだろうか。今まで腐れ縁的な関係で、ほとんどのイベントを先輩と過ごしてきたとは言え、それはあくまで友情であって、私のような感情ではないなんて簡単に予想つく。


無意識に少しずつ下に向いていってしまう。

でも先輩は、そんな私の顔をなぜか急に両手で挟んでくる。


そして——そこで驚いて顔を上げてしまったのが失敗だった。いや、違う目線から見れば正解かもしれないが。


先輩の顔が近づいてきて、唇になにか、プリンのような柔らかい感触に襲われる。

それはすぐに消えていって——


「——ふふっ、ドキドキした?」

「ぁ……は、はい……」

「なら、よかった」


脳が揺さぶられる感覚がする。さっきの——キ、キスなんだろう——と先輩の色っぽいの言葉のせいで脳がバカになってしまう。


周りからは「キャー!」と言った甲高い声が聞こえる。


……後、隣の同級生がずっと何か呟いてる。

「夏織さん……?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで——」


……おおけい?私は何も聞かなかった。いいね?


閑話休題。


にしても先輩は狡い人だ。いつもは無表情、でも時々色っぽいって感じだけど、今は色気100%だ。お酒はここまで人を変えてしまうのか——正直に言うと、ずっとこの状態の先輩だと勝てる気がしないのでやめてほしい。


でも……時には、こんな先輩もいいかもね。


+_+

お酒にありえないくらい酔ってる人は苦手です。

話が通じないからですね。

ちなみに横で呟いてる同級生は個人的には結構好きなキャラではあります。

次回は大晦日回です!


Thanks!

霧島からでした。

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