メロすぎる先輩に困っちゃう!!

霧島 

メリークリチュ……クリスマス!!

「ねえ先輩、クリスマス、って言いにくくないですか?」


バカな後輩——梨々香からまたもやバカな質問を投げかけられる。


「はぁ……別にそんなことないだろ。ただお前の滑ぜちゅ……」

「……」

「……」





——あ。


「え?」

「……滑舌が悪いだけだろ」

「いやいや!!誤魔化せませんよ!?今完全に『ぜちゅ』って言いましたよね!?」

「い、いや、言ってない。お前の勘ちゅがいじゃないのか!?」

「なわけありません!後、今も『かんちゅ」っていいましたよね!?なんなんですか、私とキスしたいんですか!?」

「なわけねえだろ!!」


はぁ……とため息を吐く。

忘れていた。そういえば私も滑舌が悪いんだった。


「いや、先輩。ため息を吐きたいのはこっちのセリフですよ」

「うるせえよ!!」


だとしても、この後輩は生意気すぎる。確かに初対面のときに「私とのコミュニケーションは適当でいいよー」と若干投げやりでいった覚えがあるが、こんなことになるとわかっていたなら絶対そんなことは言っていない。


「それなら、先輩。メリークリチュ、クリマチュ……クリスマスって言えるんですか?……はぁ、やっと言えた」

「お前も言えてねえじゃねえか」


そんなに言いにくいか?クリスマスぐらい私でも言える。そんなに私を舐めてもらっては困る。ここは少し先輩の威厳というものを見せねばならない。


「……メリークリジュ」

「『ジュ』……?」

「……メリークリチュ」

「『チュ』……?」

「メリークリマス……!」

「———」


ふふん、どうよ。後輩はどうやら、私が凄すぎて言葉も発せない状況のようだな。

ここはせっかくならドヤ顔もしてしまおう。クリスマスぐらい楽s——


「——言えてないじゃないですか!?」


急に梨々香が机をドンッ!!と強く叩いて立ち上がる。その姿に私を思わず少し後ろ図さってしまう。


「???」

「そんな可愛い顔で『んなわけあるか』みたいな顔で見られても困りますよ!?

ええっと……最初は『ジュ』で、次は『チュ』——やっぱり先輩私のこと狙ってるのかな(小声)?——んんっ!……それで、最後に関してはもう”ス”を抜かして、クリスマ、になっちゃてるじゃないですか!!」


梨々香は体を大げさに動かしながら、最後にはその顔を私の目線のすぐそこにやる。


……正直に言わせてもらうと、こいつは何を言っているのだろうか?もしかして耳が悪いのだろうか?それなら私が時々行っている耳鼻科をお勧めするのだが……


あ、もしかして?


梨々香は、息をはぁはぁ、と切らしながら、なぜか頬を赤らめた顔でこちらを見てきている。


「……なあ、梨々香」

「はぁ、はぁ……ふぅ。なんですか先輩?」

「……お前、この前のテストの5教科合計何点だったか?」

「えっと……なんで?」

「いや、いいから。とにかく何点だった?」

「えぇ……」


そこから梨々香は視線を左上に動かし——それに釣られて顔も動きながら、点数を思い出しているようだった。


「ええと……確か、390——とかそれぐらいだった気がします」

「390……意外と高いな」

「あ、はい。ありがとうございます?それでなんで——」


梨々香は、何か重要なことに気づいたときのような顔をしていた。そしてそのまま、梨々香の顔は少し曇っていき、曇りと晴れを繰り返しながら、最後には曇りを振り切り満天の晴れのような顔でこちらへ向いてくる。


「先輩、もしかして!私の発言が頭悪いからだと思ってます!?」

「ありゃまバレちゃった?」

「まったく悪く感じてない!?」

「いや、普通に頭のネジ何本か外れてないとあんな一気に嘘なんて言えないでしょ」

「ネジ外れてんのは先輩の方だよ!!なんなら先輩の頭は楔で止められてるぐらいですよ!!」

「楔……?よくわからないけど、頭のネジが何本外れてても、私は梨々香のことを見捨てないよ」


そういいながら私は両腕を大きく広げて、梨々香の体をこちらへと引き寄せるように抱く。


梨々香が何を言っているのかわからないが、鬱で精神がおかしくなってしまっているのだろう。そんな時は人と触れ合うと良くなると聞いたことがある。


「なにかあったんだよね?先輩になんでも言ってみな?」

「せ、せんぱいぃ……って!?」


梨々香はとても驚いたような顔で、私から離れる。


「きゅ、急にどうしたんですか」


顔を赤らめながら、こちらをチラチラとみてくる梨々香はまるで小動物のようだった。


「いや、梨々香が変な発言・行動をするのは鬱だからなのかなって思って。ほら、そういう時は誰かと触れ合うとよくなるっていうでしょ?」


私がそのように発言していくと、梨々香の顔は少しずついつもの顔の色へと戻っていく。


「どうやったら、そんな結論に至るんですか……?後、変な発言・行動をしているのは先輩ですよね?」

「いやいや、梨々香でしょ」

「先輩ですよ?」

「梨々香だよ?」

「先輩です!」

「梨々香!」

「先輩!」

「梨々香!」

「いや、いつまで続くんですか!?」

「梨々香が始めた物語でしょ?」

「先輩が始めた物語だよ!」


梨々香は、またもや息を切らしているようだったが、私は今年1笑っているかもしれない。


「ふふっ、全部冗談に決まってるじゃん」


梨々香には申し訳ないが、私が噛んだ後から今まで、全て冗談だ。


「はぁはぁ……え……?冗、談……?」

「うん、冗談」

「……じゃあ私が、息を、切らしながらっ、先輩に説明したのも、謎にテストの点数を言ったのも、先輩が私をハ、ハグ……したのも、全部……?」

「冗談だよ——ハグしたのも含めてね」

「っ……!」


——ハグ、という単語を出してみると体をビクッ、と震わせる梨々香の姿がとても面白い。これなら、わざとアホの振りをした甲斐があったというものだ。


ふふっ、せっかくならもう少しからかってやろう。


「そんなに私のハグが嬉しかったのかい?もう一度やってあげようか?」

「っ——!!??そ、そんなんだから彼氏いないんですよーー!!!」

「あ?」


カレシだと……?こやつ、私の地雷を綺麗に踏み躙りやがった……!死ぬまで追いかけてやる。


「待てやクソが!!」

「ちょい、ちょっと待ち!!??冗談、冗談ですからーー!!」




——結局運動不足であった私の体力切れで、梨々香の勝利となるのであった。








「(先輩ってレズ……なのかな?……そうだと、嬉しいな)」





=_=

本当にクリスマスって打ちにくくないですか?

もうクリマスでいいと思います。

次は忘年会回です


Thanks!

霧島からでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る