なんで年越し”蕎麦”なんですか?

「先輩。なんで年越し”蕎麦”なんですかね?」

「ん……そんなのどうでもいいだろ」

「いや、大晦日にうどん食べてる人が何言ってるんですか!?」


梨々香が言う通り私が今食べているのは、いわゆる肉うどんというものだ。


「うまいんだから別にいいだろ。蕎麦とうどんなんてほぼ一緒だよ」

「全然違いますよ!?共通点、麺類ってことぐらいですよ!?」

「うるさいなぁ……うどんの方が美味しいんだから別にいいじゃん」

「ま、まあ……それはわかりますけど……」

「お前もうどん派なんかい」


じゃあなんで聞いてきたんだよ。

うん、まあ、蕎麦ねぇ……まずくはないんだけどね。なんというか……質素というか、つゆが本体というか……。


まあ、簡潔に言えば、別にわざわざそこまでして蕎麦を食べる必要はないってことです。


「せっかくなら梨々香も食べるか?肉うどん」

「え?余ってるんですか?」

「いや、余ってないけど」

「はい?何言ってるんですか?もしかして何も食べてない私に対する腹いせですか?」


そう言って頬を膨らませる可愛い後輩の姿を見て思わずふふっ、と笑ってしまう。


「そういうんじゃないよ。私の分けてあげるから。ほら、口開けて」


箸で2束ほどの麺とサービスで肉を挟んで梨々香の顔の前に持ってくる。

梨々香は顔を真っ赤にして、目線があちらこちらに飛び回っている。


「はい、あーん」

「うぇ!?い、いやだいじょ——」

「——いいから、食べて。ほら、あーん」


有無を問わない私の姿に、梨々香は更に目線が飛び回って、目が少しずつぐるぐるマークへと変わっていく。

そうして、梨々香の脳が耐えきれなくなったのか、それとも目線が回ってただただ酔ったのか、梨々香の顔が少しずつ緩んでいった。


そうすると、口も無意識に少しずつ開いていくというもので——


「——ほい」


そのわずかに開いた空間を見逃さないように、すっと箸を口の中に入れ込む。


「ぁ……ぇ……???」


梨々香は未だ状況を理解できていないようだった。

そんな梨々香に、私は問いかける。


「美味しかった?」

「ぁ……お、美味しかった……でしゅ……」


舌を噛んで、恥ずかしそうにしてる梨々香を見て、もっと追い討ちをかけたくなる。

そんな悪魔的な考えに至った私は、さっきまで梨々香の口に入っていた箸を私の口へと——


「——ちょ、ちょい待てーー!!」


——しようとした時、梨々香は急に意識を取り戻したように、私の手から箸を取り上げた。


「先輩!何しようとしたんですか!?」

「ん、普通に箸の先を口に入れようとしただけだよ?」

「なぁーに当たり前のようにめちゃめちゃに濃ゆい間接キスしようとしてるんですか!?」


そんなに濃ゆいか……?昔からよく妹としてたから普通だと思っていた。

これをしたら、妹がとても喜んでくれていたため良くしていたのを思い出す。


「よく、妹とやるよ?」

「妹さんと!?こんな、え、えっちな間接キスを……!?

もうそれ絶対シスコンになってるでしょ、妹さん……(小声)」


ぼそぼそと何を呟く梨々香。後、えっちって言うのが恥ずかしいなら言わなければいいのではないか、と思ってしまうが、それを言うのも野暮というものだろう。


「まあまあ、別にいいじゃないか。で、なんだっけ?蕎麦の話だったけ?」

「別にいい……」


なぜか、顔を曇らせた梨々香。そこまで蕎麦が嫌いだという表現だろうか。


「はあ……そうですね。蕎麦の話です、早速ですが、何蕎麦が好きですか?」

「何蕎麦……?なにそれ?」

「え?知らないんですか、ちなみに私は二八蕎麦が好きですけど」

「なにそれ、知らん……怖」


蕎麦に種類なんてあるのだな……つゆにつけて食べるだけだと思っていた。


「ちなみに何が違うんだ?」

「ああ、なんでしたっけ。ええと、多分ですけど、蕎麦粉と小麦粉の割合的な」

「じゃあ、二八蕎麦というものは蕎麦粉2、小麦粉8ということなのか?」

「いや、確か逆で、蕎麦粉の方が8で、小麦粉が2だった気がします」

「へぇ……」


知らなかった。まず、蕎麦粉というものを初めて知った。この世はまだまだ知らないことばかりだな。


「うーん……食べず嫌いも良くないしなぁ……今度食べにいってみることにしよう」

「え、食べたことなかったんですか?……でも、先輩」

「ん?なんだい?」


梨々香は、壁にかかっている時計を指して言った。


「後もう、年明けまで30秒ですよ?」


「——え?」


そうやって私が驚いている間にも刻々と時間は過ぎていき、12へと近づいていく。


「ほらほら、先輩立って!ジャンプしますよ!!」

「ちょ、ちょっと!」


そうやって手を引かれて無理に立ち上がらされる。

テレビは、10秒前のカウントダウンを進めていく。

梨々香もテレビと一緒にカウントダウンを行う。


「5、4、3」


梨々香は少し足を曲げて、もう飛ぶ準備を済ませている。


「2!」


それに釣られて、私も足を曲げる。


「1!!」


梨々香が飛び上がる。私も少し遅れて、精一杯ジャンプする。


「0!!」

「ぜ、ゼロ!!」

『ゼロ!!』


自信満々な梨々香と不慣れな私とテレビの音が重なる。


決して綺麗な声の重なりとは言えなかったが、今まで聞いたどんな声の重なりより、私にとっては綺麗なものだった。



=_+

蕎麦……別にアレルギーとかではないんですけど食べれないんですよね。

後、先輩と梨々香は先輩の家に居ます。付き合ってないです。

次回は元日、次次回は正月回です。た、たいへんだぁ……


Thanks!

霧島からでした。




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メロすぎる先輩に困っちゃう!! 霧島  @oyster-sauce

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