第4話 無駄な差し手の意味と価値 その2

 第2局

 ――来賓要望反映。

 ――接待プロトコル解除。

 ――最善手選択:有効。


「それじゃあ、いくよコウ君!今度こそ本気の真剣勝負!」


 ミヤコは気合十分に駒を進めた。

 初手。悪くない。読みも第2局目にしては改善されている。


 ――……だが、まだまだ。


 コウは迷わず応じる。

 一切の躊躇なし。

 一切の感情的補正なし。


 ――三手先、進化、主導権確保。

 ――七手先、包囲完了。

 ――十二手先、勝勢確定。


「ん?あ、あれ?ちょっと待って」


 ミヤコが首をかしげる。


「え、そこ来る?いや、来るのはいいんだけど……」


 彼女は盤面を凝視し、次の手を打つ。

 その瞬間、コウは確認した。


 ――詰みまで残り八手。

 ――回避手段:なし。


「コウ君、さ」


「はい」


「ちょっと強くない?」


「まぁ、最善手を選択しているからね」


「いや、それは分かるんだけどさぁ!」


 ミヤコは笑いながらも、明らかに焦り始めている。

 手が速くなり、読みが荒れる。


 そして――


「……あっ」


 ミヤコの駒が、致命的な位置に進んだ。


 ――詰み確認。

 ――最短手数更新。


「――終局です」


 コウの駒が静かに置かれた。


 沈黙。


 次の瞬間。


「コノヤロー!!!!!」


 ミヤコがコウの顔面を指さして立ち上がった。


「ちょっと!ちょっと待って!?

 え、なにこれ!?

 さっきまで普通だったじゃん!?

 急に人の心なくなったんだけど!?」


「え……?」


「え、じゃないよぉ!!何この無慈悲な包囲網!!

 私の駒、呼吸してる暇もなかったんだけどぉ!?」


 ミヤコは駒を一つひとつ指でつつきながら叫ぶ。


「ここ! ここで挟んで!

 で、逃げたらこっちが進化!

 いや、分かるよ!? 分かるけどさぁ!!」


 コウは困惑した。


 ――要求通り、最善手を選択。

 ――勝利達成。

 ――しかし、来賓の怒りを検出。


「ミ、ミヤコさん?今回は“本気でやる”というご要望でしたが……」


「本気でやれとは言ったけどさぁ!!あと敬語ぉ!」


 ミヤコは腕をぶんぶん振る。


「情けってもんがあるでしょ!!もうちょっとこう……!

 希望とか! 夢とか! 粘らせるとか!!」


「……ゲームの仕様上、最適解を選択した結果――」


「むがぁー!ちがうちがう、ちがーう!!」


 頭を抱えて天を仰ぐ来賓。

 だが、次の瞬間。

 ミヤコは吹き出した。


「……ぷっ」


「……?」


「はははは!なに真面目に説明しようとしてるの!」


 ミヤコは目尻に涙を浮かべながら笑っている。


「もう、ほんとズルいなぁコウ君。強すぎ!」


「……怒って、いないのですか?」


「怒ってるよ?」


 即答だった。


「でもさ」


 ミヤコは椅子に座り直し、にっと笑う。


「ちゃんと負けたって感じがして、これはこれで気持ちいい」


 ――怒りと満足が同時に存在。

 ――感情の重ね合わせを検出。


「次はさ」


 ミヤコは指を一本立てる。


「ハンデつけて、もう一回ね!」


 コウはわずかに間を置き、頷いた。


「……うん。次局では、調整するよ」


 その直後、内部ログに新しい項目が追加された。


 ――《学習メモ》

 人間は「本気で負けること」にも価値を見出す。

 ただし、その価値は勝敗そのものではなく、過程に宿る。


 コウは盤面を見下ろしながら、

 まだ言語化できない“楽しさ”を、確かに検出していた。


 つづく

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