一週間メランコリー ★9
★9 メグミの取り合い
庄平はメグミのことが大好きだった。私も彼女が大好きだった。つまり私と庄平は親友で、そして同じ相手が好きだった。ありがちなことだ。私は彼女のことをが好きだということを隠していた。
そのことを私は庄平に打ち明けられなかった。
なんだかそれが、悔しいような気持ちになる。メグミの取り合いでもして殴り合いとかしたかった。
まあたぶん、殴り合いの結果はどうあれ、メグミを取るのは私だろうけど。
メグミの美しさをどう例えればいいか難しくて上手く説明できないが、どうにかしようと考えると、スラッと背が高く、笑顔がおしとやか……で……そうだな、学年二百人いてその中でおそらく一番目人気があるような子だった。彼女が活発であれば。
けれども実際はそうではない。その美貌を隠すようにしていた。自分でもわかっていたんだろう。性格が嫌味みたいなことではなく、事実、あまりにも美しかったため、妬まれるのだ。
誰でも彼女に接点を持つと好きになってしまう。大人しく洗練されていて、中学一年生にして完全に大人だった。いや、少し大人ではないような……そこがまた引き立っていて、しかしどこか恐縮しているというか……形容し難いのだが。
メグミと関わった者はそれほど多くはなかった。彼女が隠れるようにしていたんだ。目立ちたくなかったのだと思う。
けれども私も庄平も、彼女に関わってしまっていた。
もちろん悪いことじゃない。恋愛感情を抱かざるをえなかったというだけで、当たり前のことだ。
庄平が水難事故に遭ってから意識不明となり1週間が経過した。私たち生徒はとても長い期間、意識が戻ることを願って待っていた。これはかなりの精神的負担を伴うものだった。
ん?
いや、短い間……だったか、ん、長い間か?
なにかがズレている。強い精神的ショックを受けたから、おかしくなっているのだろう。
校門をくぐってぐるっと右側方向に回ると職員玄関があり、そこにピンク色の公衆電話があった。そこを通った時にいきなり電話が鳴り出した。誰も他にいなかったので出た。
誰が誰にかけたんだろう?
公衆電話、緑のものピンクのものいずれにも電話番号が割り当てられているので、かかってくることは稀にある。学校の電話番号の一つとしてどこかに記載されていたのかもしれない。誰だったのか今でも分からない。しかし、内容は覚えている。女性の方だった。かなり若い声……それこそ中学生のような感じがしたけれども、わからない。
「はい」
「あっ、律暁君?」
「そうです」
「さっき、庄ちゃん亡くなったよ、大丈夫?」
「……まあその、覚悟はしていましたけど……あの、何時頃に亡くなりましたか?」
「さっきだよ、たったさっき」
「そうですか……あの、どなたにお電話代わればいいですか?」
「いや、代わらなくていいよ」
「えっ、それはどうして……」
「律暁君に電話をかけたのだから」
そう言って、電話が切れた。誰だったのだ?
幻聴ではない……と思う。
受話器を置いてから疲れが押し寄せてきて、膝をついて両手を床に当てる形となった。全く……涙も出ないものなんだな。疲れたからなのか、私の性格上の問題か。
保健室の前だったのですぐに発見されてベッドに寝かされそうになったが、断って教室へと戻った。
メグミは1週間毎日泣きすぎて、疲れ果ててぐったりとしていた。どうにか元気を出してほしいと考えたが、とんでもなく悪いニュースしか持ち合わせていない。とても「さっき死んだ」なんてことは話せない。もう、大丈夫、だなんてことも言えなくなった。何もできなくなった。何もしてあげられなくなった。どうしようもない。どうしたら良かったと思う?
その後、1時間くらいして集会があると放送があり、全員が体育館に呼び出された。それで、皆が気付いた。
あちこちで嗚咽が漏れつつも皆、集会へと向かった。真実を知るために。知らないままということにできたらいいのに。
例えば学校を卒業したら、一生そのまま顔を合わせない人ってたくさんいるはずだ。そういう人って、もしかすると死んでいるかもしれない。わからないのだから。ということは死んでいることとほぼ同じ意味だ。生きていることを確認できないままなのであれば、知らないままということで、悲しくないよね?悲しい?
悲しくないよ。絶対に悲しくなんかならないよね。だから、大切な人の死を受け入れないといけない理由はどこにもないはずなんだ。
……だってさぁ!考えてもみてよ!メグミに至ってはもう立ち上がることもできないじゃないか!
これ以上彼女に辛い思いをさせて一体何の意味がある!?
知りたくないんだよ!
死んだかどうかなんて、誰も知りたくない!!
知る必要性も感じないね!!
もちろん、彼女にとってはまだ庄平が死んだことについては確定していない。皆も、勘づいてはいるだろうが、庄平が死んだことはまだ知らないのだし一生知らなくていい!!
でも私は知ってしまっていた。ピンク電話に出て告げられ、確定していた。
だからこのままこの事件を墓場まで持っていけば全員が悲しい思いをしなくて済むと考えた。おかしな考えだ。しかし実際、墓場に入った気がした。
……入ったのかもしれない。入ったことのある人なんていないはずだが。
皆が体育館へと向かう中、私とメグミは教室に取り残された。彼女に肩を貸すのは無理があった。当時は彼女より、私は身長が低かったのだ。
唯一できることは、メグミが立ち上がるのを待つことだけだった。それしかなかった。いつまでも待つつもりだった。急がせることもしない。いっそこのまま、このまま時間が止まってしまってもいい。
その方がいい。彼女は永遠に傷つかない。
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