第12話 双子の村⑩
(ん……あれ、いつの間にか眠っちまってたか……?)
目が覚める。真っ先に感じたのは頭、手先、足先、口元の違和感だ。
「ん!?」
口元には猿轡。手足は魔力の付与された錠前に、頭は万力のような留め具にがっちりと固定されていた。服は――1枚残らず脱がされている。
(どういうことだ……!確か、教会に手伝いに行って……)
思い出す。そうだ、疲れているのを察したメレンゲ師により早めの休憩を貰い、そこでお茶を飲んだ途端に急に眠気に襲われたのだ。
(待て、この状況、かなりヤバくねぇか!)
辺りを見渡すとぼんやりとした蝋燭の灯りと自身の乗せられた台以外は暗闇がこの空間を支配している。肌に感じる温度は冷たく、セナの地下保管庫と似た雰囲気だが決定的に違うことがある。
「痛いよぉ……。ママぁ……」
「帰して……帰りたい……」
「痛い……痛い……」
(ウッ……!)
(気を保て!クソッ、何なんだここは)
周りから聞こえて来るのは子供の悲痛な声、声の主は、叫びすぎて喉が潰れたのだろう。すすり泣くような、か細く割れた声が、四方の闇の中から途切れることなく響いていた。
(身体が動かねぇッ!)
いち早くこの場を去ろうと足掻こうとするが、手足をバタつかせるどころか、首すら動かせないように台に固定されている。
(駄目っ!拘束も対象が私たちじゃないから解除出来ない!)
(加護の対策もされてるって訳か……クソッ!)
冷静になって状況を観察すればするほど絶望は増していく。
「無駄ですよ」
(!?)
暗闇から突然声がする。目だけで声のする方を見るとそこにはオトマー・メレンゲ、その人が背筋を伸ばし立っていた。
「双子……。この世の摂理の例外。1つの肉体を2つに分け、2つの魂を有する実に興味深い存在だ」
メレンゲはそう語りながらカチャカチャと何かを準備している。
「……この村に来る前、私は一度、東夷にて時の聖女のお供をしたことがあるのだよ」
(聖女!?)
(こいつ、まさか知ってて……!?)
「聖女が毎年のように東夷へ宣教の旅に出ているのに、一向に異教徒は減らない。だが、自身もお供してみれば答えは明確だ、純粋に技術が知識が下なのだよ」
メレンゲ師はそういうと濡れたガーゼを取り出す。
「んっ!」
腹が冷たい。それと同時に鼻に刺すような最近嗅ぎ馴れた臭いがする。
(アルコールっ!こいつまさか!?)
「では、どうすれば良いか?簡単なことだ。倫理も教えも無視して最短で発展させれば良い」
彼はペンのようなモノを手に取ると腹に沿わせ、印を書き込んだ。
(マズイ、アフラ!何か攻撃でも良い魔法出せないか!?)
(無理ですッ!手足も拘束されて口も塞がれていては……)
(く、クソッ……)
分かっていた。この状況で自身が取れる防御手段は無い。それでもこの後のことを考えれば縋る思いだったのだろう。
「マユ、セナのカルテが正しければ、あなたは私の求めた完全なる双子だ!今、それを確かめさせてくれ!」
「ん゛!?」
腹に鋭い痛みが走る。
「ん?表皮が二重になっている!おお!皮下組織も他の双子とは違うぞ!」
「ふッ゛んー!」
身体が麻酔も無しに引き裂かれる。痛みという感覚とはもはや違った激しい痛みを伴う違和感が全身を支配する。
(あ、がっ……ヒュッ、ヒュゥッ……!)
動けない。震えることすら許されない。痛みだけが支配する。
「おやおや!腹膜や筋肉は実にわかりやすい。筋肥大のそれとは違い、コチラも二重になっているのだな……。素晴らしいぞ!」
メスが膜を切り裂き、腹腔内に達した時、最悪の変化が起こった。
「ん゛っ!?」
「おや?身体が急激に入れ替わっている……。そうか!これがカルテに書いてある現象か!ははは、セナも手術中に見たと記録にあるが半信半疑だったがこういうことか!」
麻友が痛みによって意識を手放したその瞬間――身体が、入れ替わった。
次に、激痛のすべてを受けたのは、アフラだった。
(あ゛あ゛!がっあ゛……)
既に麻友と感覚を共有している段階で虫の息であったが、切開されている中で無意識に動く臓器や筋肉、皮膚の動きがアフラとしての脳にダイレクトにその痛みを伝える。
「ブッ……ブガッ……」
猿轡のせいで叫び声を上げることも許されず、ただ口からあぶくを吐きながら気絶をするしかなかった。
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