第6話
『今日はうちで食べてたけど、覚えてるよね?』
「当たり前だ。鯖の塩焼き、とろこんの味噌汁、煮物だろ」
『あ、ちゃんと覚えてる。昨日一昨日はホントなんだったんだろうね?』
「さぁなぁ……」
いつものシューティングゲームをしながらぼたんとボイチャをする。
結局、最近の記憶違いについては何も分からなかった。やっぱり病院でちゃんと検査してもらった方が良さそうだ。
「つっても、なんか爺ちゃんも変だったんだよ」
『え? 何が?』
「なんか、五円玉に糸付けてーって、そんな話したら急に黙っちゃってさ」
『…………』
「ん? どうしたんだ?」
『や、なんか下から物音した気がして。ちょっと見てくるね』
「あ、うん。泥棒ってことはないだろうが、まぁ気を付けろよー」
そう言うと、ぼたんは席を外す。ちょうどバトルが終わったところだったので、まぁ良いかとヘッドホンを外した。
すぐに『変な人は居なかった! けど今日はもうやめるー』とメッセージが来ていたので、ソロプレイに切り替えようかとも思ったが、やっぱり気になったので記憶障害について調べてみることにする。
どうやら、短期的な記憶障害は人間なら誰しも起こることらしい。
若年性健忘症と言って、まぁ様々な要因はあるが、主にストレスや頭部の外傷によって発生するようだ。
そうなると、俺はストレスではなく外傷の方だろう。心当たりは普通にある。病院の予約をし、この日は早めに寝ることにした。
その翌日。学校終わりにそのまま病院に行って検査をしてもらった。
先生はかなり親身になってくれた。やはり柔道というか、格闘技をやってる人は脳に障害が出ることが多いらしい。
それはもう対処しようがないので、気になるようなら辞めるか、少し離れることを勧められた。まぁその足で道場に行って、いつも通り鍛錬を受けたわけだが。
「結局、異常なし。一応日記とか付けるべきって言われたけど、書くことないんだよなぁ」
『普通に学校での出来事書けばいいんじゃない? 誰と何話したとか何食べたとか、そういう感じのさ』
「あー、んじゃそれ書くか」
そして、また翌日。
「早速日記が役に立ったぞ」
『え、日記って役に立つものだっけ?』
「会長に聞いた話と、レシートの日付が違うんだよ。会長は覚えてなかったみたいだけど、間違いない」
『あー、今度の文化祭の話? そういえばさっきアップされてたっけ』
「そうそう。ってことはおかしいのは俺じゃない」
二人で、息をのみ――
「『世界の方だ!』」
声を揃え、そして一拍置いて笑う。
「まぁ、あれだ、会長でも普通に覚え間違えることだってあるよな」
『会長だって人間だしね。んでも、それでいいんだ?』
「いいって、何がだ?」
『原因究明! とかそういうの、張り切っちゃうタイプじゃないの?』
「…………まぁ、なぁ」
とはいえ、過去の行動を探るのは難しい。他人がいつどこで何をしたかなんて、警察でもなければ調べられまい。
それに、仮に会長が嘘をついていたとしよう。それを突き止めたとして、俺になんのメリットがある? 女子の秘密を暴いたカス野郎になって終わりだ。
相手は、男女問わず人気の野間みどり。
生徒会護衛の俺が彼女の嘘を暴いたところで、ただ俺の評価が下がるだけで終わるだろう。
『……ま、あきくんが良いなら良いんだけどさ』
「それに一応、作戦は考えてある」
『作戦? どんなどんな?』
「秘密だ」
『えー、教えてよー』
「おい次のバトル始まるぞ。準備終わったか?」
『あっ、誤魔化したー。ま、あきくんの考えてることなんてお見通しだよーだ』
「分かるかな……!?」
何せ、この作戦を考えたのは俺じゃない。3年くらい前にゲームで仲良くなった、インド人だ。
相談相手は一人じゃダメだと半年ぶりくらいに連絡を取ってみたが、『それはシヴァの仕業だ』とか冗談を言いながらも相談に乗ってくれた。
彼の作戦は、俺には想像もできないような作戦で――
この作戦が上手くいくことを、願うしかない。
俺の記憶違いは、はたして本当に俺の記憶違いなのか。
――恐らく、明日ハッキリする。
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