第5話

「……あれ?」


 夕飯を食べてる最中に、ふと頭が晴れやかな気分になった。

 なんだか、最近悩んでたのが嘘みたいだ。そもそも何に悩んでたんだっけ。ゲームのランクが中々上がらないことだっけ。そうそう、急にプレイヤーが強くなるんだよな。このへんのランクで停滞してる人が多くて――


「って違う!!」


 ばん、とコップを机に叩き付ける。祖父がビックリした顔で俺を見た。


「どうした秋信、何が違うんだ?」

「いや、……爺ちゃん、昔記憶喪失になったとか言ってたなかったっけ?」

「記憶喪失ぅ? ……いや、そりゃたまにはあったが」

「試合関係?」

「それ以外もだぞ。なぁ、よしみ」


 祖父が振り返ると、キッチンで洗い物をしていた祖母がこちらを見る。


「……あなた、昔っから忘れっぽいのよねぇ」

「そうそう、デートの予定すっぽかしたりな」

「あれはすっぽかしたんじゃなくて、デートしたことを忘れただけでしょう?」

「そうだったかぁ……?」


 二人の会話を聞きながら、少なくとも参考にはならなそうだな、と頷く。


「よしみがなぁ、ほら昔、五円玉に糸通して――」


 がしゃん。


 キッチンから、割れた音がする。


「婆ちゃん!?」


 爺ちゃんが、固まってる。婆ちゃんは――


「……あらごめんなさい。小皿、割っちゃったわ」


 すぐに、爺ちゃんが動き出した。音に驚き過ぎて心臓止まったのか? まぁもう80過ぎだしなぁ。

 少なくとも、この二人で解決できることじゃないだろう。飯を食い終わると、まだ黙ってる祖父の脇を通り、階段を登る。

 

「おいぼたん、入るぞー」

「うぇっ!?」


 2階に上がり、ぼたんの部屋へ行く。ノックすると中から返事が聞こえるので、扉を開けると――


「……何してんだ?」


 抱き枕を抱えたまま横になってる、ぼたんの姿があった。


「え、や、な、なんでも?」

「なんでもって状況じゃねーだろ……」


 床には様々なものが散乱している。プログラミングの本だろうか? それにノートパソコン。ゲームでもしてると思ったが、違ったらしい。

 とはいえ、今はベッドに転がってるので、寝ていたのだろうか?


「なんだこれ?」


 パソコンに表示されているのは、――何だろう?

 黒背景で中央には目玉。それを囲うように、色とりどりの帯が動いている。ゲームにも見えないし、アニメにも見えない。帯は動いてるようだが、何だ?


「ぼたん、これ何?」

「え? ……な、なんだろ? ブラクラ?」

「ブラクラ?」


 ベッドから手を伸ばしたぼたんが、ノートパソコンをパタンと閉じた。

 抱き枕をぽいっと放り投げ、ベッドに腰掛ける。少し顔が赤いな。エロサイトでも見てたのか? まぁ高校生だもんな。そんくらい見るか。


「んで、あきくんは何しに来たの?」

「いや、なんかさ」


 自然な流れで、ベッドの上に置いてあったスマホを手にとったぼたんが――

 その画面を、俺に見せてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る