第4話
「うーん……」
記憶がない。いや、ゲームをしてる時の記憶が正確にあるかと言われたら自信がないけど、夕飯を食べた記憶すらないというのは、確かに異常だ。
「記憶喪失……?」
そうなると、会長と買い物してるところを見かけたというのもあながち間違いではなかったのかもしれない。
そう思って、俺と会長をオリオン通りで見かけたと言っていた権藤のところへ行って話を聞くと――
「え? 葛木くんと会長を? ……なんの話?」
「へ?」
……あれ? どういうことだ?
「オリオン通りで俺と会長見たって言ってなかったっけ?」
「知らないけど……、いつの話?」
「…………いや、いいや。記憶違いだったかも、悪い」
権藤の傍を離れ、後ろの席で漫画雑誌を読みながらイヤホンで音楽を聞いてる柏田の耳からイヤホンを引っこ抜く。
「うおぁっ!? ……あぁビビった。どうしたんだ?」
「柏田、昨日俺がライトライン乗ってるの見たって言ってたよな?」
「……そうなの?」
「あー…………、よし、今の無し」
すぽっと耳にイヤホンを戻す。柏田は「なんだよー」と文句を言いながらも漫画に視線を戻した。
……はて、本格的にヤバいかもしれない。
というわけで、もやもやだけを残したまま授業を終え、生徒会室に向かうと――
「ぼたん?」
そこには、会長と君塚先輩、それにイトコのぼたんが居た。
ぼたんは生徒会会計だが、めったに出てこない。在宅ワーカーなのだ。いいのか生徒会。いいんです。会計の仕事はデータ管理だけなので、生徒会室にいる意味があんまりないからだ。
「あきくん? どうしたの?」
「どうしたというか……、ぼたんの方こそどうしたんだ」
「気まぐれ? んじゃかいちょー、ふくかいちょーも、気を付けてくださいねー」
それだけ言って、ぼたんは俺と入れ違いに生徒会室を出ていく。
ぼたんは全校生徒部活動加入が必須(ただし生徒会を除く)という校則のある高校で部活をしたくないがために生徒会に入った強者で、俺を会長に紹介したのもぼたんである。
生徒会は俺以外が3人とも女子生徒なこともあり、よく生徒会護衛とか言われる。うるせえな。書記だよ書記。でも俺が入ってから運動部からのクレームが滅茶苦茶減ったらしい。
別に入学以来一度も喧嘩とかしてないし、柔道をやってることを知ってるのも仲いいやつくらい。それでもまぁ、189cm92kgの男に喧嘩を売る生徒はそうそういまい。丈夫なデカい体に生んでくれた両親に感謝である。
「んで、どうしたんですか?」
「なんでもないよっ!?」
問うと、会長が声を荒げる。どうしたんだ?
「君塚先輩?」
「んー?」
「ぼたんに何言われたんですか。シメますか」
「いやいやいやいや、葛木ちゃんには関係ないよ? 女子の話」
「あぁ……」
それなら確かに俺が聞けることはない。生徒会長含め浮ついた話など聞かないが、そりゃ女子トークだってあるだろう。
「変なタイミングで来ちゃいましたね。すみません」
「ううん、気にしないでー」
「……でもぼたん、男子の話とかするんですね。意外だ」
「するよ? 割と」
「するんだ……」
意外すぎる。普段は三次元の男に興味ないとか言ってる癖にな。実はやっぱ興味あんじゃん。女子だなぁ。
イトコの意外な側面を知り――、しかし、少し引っかかる。
「あの会長」
「うん?」
「オリオン通り」
びくっ。
わざとらしく、会長が肩を震わせる。
「何か知ってますか。その、相談乗ってほしいんですけど」
「そ、そうだん? ……どうぞ?」
「なんか、ここ数日記憶が……なんか、おかしくて」
「ふむふむ? 続けたまえワトソン君」
君塚先輩が、探偵のようなポーズで俺を見上げる。
「クラスメイトから聞いたはずなのに、そいつは何も覚えてなくて。俺も食った飯のことも覚えてないし、……なんか、流石に病院行った方が良いかなぁって……、頭でも打ったかなぁ」
祖父も昔はちょいちょい記憶飛んでたって言ってたんだよなぁ。
試合に向かってる思ったら優勝者インタビューを受けてたとか、そういう話を聞いた記憶がある。格闘家なんて常日頃から頭ぶつけまくってるから、そりゃ脳にダメージも入るものだ。
「……さと」
「ん、りょーかい」
会長が、神妙な面持ちで君塚先輩に声を掛ける。先輩は、頷くとスマホを操作し――
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